全国X線撮影技術読影研究会副代表世話人 矢野雅昭
高齢者外傷(転倒・転落など)患者さんの骨撮影機会が増えてきている。今回は特に“高齢者患者さんに無理を強いらない撮影法撮影技術“を考えてみると同時に日本放射線技術学会発刊のX線撮影技術学に掲載されていない撮影法撮影技術を紹介したい。
高齢者外傷の主な受傷部位は特に肩部、手関節部、股関節部、足関節踵骨部、胸腰椎脊柱部などが多いようである。そこでこれらの部位における骨撮影法撮影技術をポジショニング中心に考えて行きたい。
@ 外傷肩部・・・転倒転落においての受傷部位は、鎖骨、上腕骨、肩甲骨、肋骨が挙げられる。この肩部の基準撮影法はY字像撮影と肩関節部正面像撮影がまず撮影される。最初の撮影は肩部における受傷病態が明確に表現されるY字像撮影である。この肩部でのY字像には、上腕骨近位部骨折・肩甲骨骨折・鎖骨骨折・肋骨骨折・肩関節脱臼・肩鎖関節脱臼などが明瞭に描出される。まずはY字像撮影である。Y字像撮影法はPA方向頭尾15度斜入撮影が基本撮影法とされているが、“高齢者に優しい撮影技術”としては患者さん自身が健側手掌で患側肘部を保持しながら椅子に座位し患側を30度前斜位にしたポジショニングで管球角度を付けず中心X線を上腕骨頭-肩甲骨内側縁を通るラインに水平入射させ受傷肩部全体を描出させた画像を作ることが重要である。その後受傷部位ごとの固有撮影を追加続行するべきである。また座位で撮影することで大きな肋骨骨折に付随して起こる気胸が描出されることがあり優位な撮影法である。
座位仰臥位正面AP撮影
Y
view画像
(上腕骨頭-肩甲骨内側縁ラインへ水平X線入射)
A 手関節部・・・橈骨遠位端骨折(Colles/ Smith/Barton fracture etc)が最も多い。健側手掌で患側手関節部を支持しており非常に痛がっている。撮影は両斜位を含む4方向撮影が基準撮影である。最初に撮影されるのは橈骨の骨折状態が明瞭に確認できる側面像撮影である。画像読影後シーネを装着し撮影を続行する。これも“患者さんに優しい撮影技術”である。
B 股関節部・・・大腿骨頸部骨折が大部分である。病的骨幹部骨折も見受けられることから患者接遇に特に注意を要する。基本撮影は両股関節正面像と大腿骨頸部軸位撮影法である。独歩不能な状態であることからそのままの状態で撮影することが重要である。軸位撮影法は健側大腿骨部を90度外転させ保持台に乗せX線中心を患側鼠径線に向け大腿骨頸部に直交入射させる。
C 足関節踵骨部・・・撮影は足関節斜位4方向撮影が基本となる。ポジショニングには無理を強いらないように注意する。足関節側面像にはクロステーブル撮影法も有用である。踵骨骨折を疑った時にはまず側面像を撮影し評価する。骨折のある踵骨軸位像撮影法は踵骨軸位像が歪む40度斜入撮影は止め、側面撮影を行ったポジショニングのままで軸位像が得られる、受光面にX線を直交入射するクロステーブル撮影法を用いる。この撮影法は脛骨最下端部と足舟状骨粗面を結ぶラインを水平X線に平行とするだけで歪みの無い踵骨軸位像が“患者さんに痛みを与えることが無く”得られる非常に有用で簡単な撮影技術である。グレーデル効果にて散乱線除去を行うことから低い管電圧50数kvが利用でき40度斜入法にあるヒール効果も現れず踵骨骨梁鮮明な軸位像を描出することが出来る。骨折の有る距踵関節撮影は元九州大学病院の榊和宏先生が第11回ISRRT幕張大会で発案されポスター展示最優秀賞の評価を得られた両側同時距踵関節撮影法を紹介します。非常に有用で“患者さんに優しい撮影法”であります。踵骨骨折の基準撮影は踵骨側面像が撮影され画像読影後そのままの側面撮影ポジションで軸位像を撮影する。最後に両側同時距踵関節像を撮影する。この踵骨3方向撮影は“患者さんに無理を強いらない優しい撮影技術”である。
踵骨側面像撮影 軸位撮影法
(脛骨下端-足舟状骨粗面ライン2横指踵側へ水平X線入射)
1998 11th ISRRT幕張大会ポスター最優秀賞受賞榊和宏氏 両側同時距踵関節撮影法榊変法とその画像
D 胸椎腰椎脊椎部・・・高齢者転倒患者さんに多い胸椎腰椎圧迫骨折は痛みがひどく独歩不能状態で撮影室に入る。患者病態から脊椎圧迫骨折(いつの間にか骨折も含む)は容易に診断されるため直ぐの画像を急がない。大きな痛みが治まった時に撮影を行い仰臥位そのままの状態で正面側面2方向撮影が行われる。側面像撮影は仰臥位ポジションのまま側方向から水平にX線を入射するクロステーブル撮影法が有痛脊椎高齢者患者さんにとっては“非常に優しい撮影法”である。圧迫骨折の診断画像には脊柱に荷重をかけた立位座位撮影画像が求められ椎体前縁の減高状態を評価するがコントラスト良い画像であれば椎体形状と断裂段差のある骨梁を指摘することが可能である。受像系を不動とすることが肝要である。
大林製作所製ホルダー AS社用ホルダー
腰椎側面像仰臥位クロステーブル撮影法における圧迫骨折画像
E 両側同時頬骨弓軸位撮影法・・・頬骨弓単純撮影法にはさまざまな撮影法があるが被検者に出来る限り負担の掛からない撮影ポジションで軸位像を得るには通常行われている術中ポータブル撮影法が“患者さんに優しい撮影法技術”である。この撮影法は頬骨弓面と受像面を平行としX線を下顎方向よりこれらの面に対して垂直入射とするだけの簡単な撮影法である。
自然な仰臥位においての両側同時頬骨弓軸位像撮影法とその画像
一般骨撮影に従事する診療放射線技師にこれから望まれることを考えてみると、まずは撮影した画像は自分自身で検像し医師からの要求を満たしているかを評価する。現在の患者病態を正確に描出しており患者の診断・治療に有益な画像が提出されているのかが重要である。再撮影をすることは被ばく線量を増加させることとなることから自身の撮影技術スキルアップが求められる。
診療放射線技師が撮影後検像しインプレッションをレポートする(患者さんには“動いてないか確認します。”と言及すること)ことで撮影技術のレベルアップが図られることは技師として当然である。
患者さんを中心としたスタッフの一員としての診療放射線技師は“医療安全の一環”としてもっともっとスキルアップするべきと考える。
橈骨頭骨折
肘関節2方向基準撮影検像インプレッション後 グリンスパン撮影を追加撮影
聴神経腫瘍
頭蓋骨2方向基準撮影検像インプレッション後 経眼窩内耳道撮影およびStenver’s撮影を追加撮影
第5趾中足骨基部骨折
足関節両斜位4方向基準撮影検像インプレッション後 足背斜位撮影を追加撮影
「患者さんに優しい一般骨撮影」を考えてみると事故や外傷で撮影室に入る患者さんの願いは、“治療に結びつく診断能の高いX線写真を、被ばく少なく撮影回数少なく、痛みを伴わないよう優しく”撮ってほしいと願っております。
あなたのポジショニングとその撮影法撮影技術で患者さんの“病態が消え骨折が不鮮明になった”とするとどうしますか。X線画像は影絵です。あなたの撮影技術次第でどのようにもなります。肝に銘じ切磋琢磨するよう願います。最後になりますが“撮影上手いよね!”と言われる技師になりたいものである。
しっかり頑張って上手い技師になってください!
付録