骨撮影技術と画像の読影―撮影技術の基礎―
日本医科大学千葉北総病院 放射線センター
技師長 川村義彦
講演の概要
骨撮影技術はX線発見以来の長い歴史があり、多くの研究と書籍が出版され、すでに完成されたものとして現在ではその研究が極端に少なくなっている。しかし、臨床現場では曖昧さがまだまだ存在し課題があることから、研究の余地が残されているように私は思っている。何が課題かを私なりに挙げてみると、その一つに、結果としての撮影法が一人歩きをして、撮影技術が作られたときの組み立て方・考え方の理解がなおざりにされており、それが現場技術の曖昧さにつながっているのではないのかと考えている。この見方が適切だとすれば、今一度、組み立て方・考え方の過程を見直し組み立てのポイントとなるところを再確認し、その結果を共通認識として持って、そして現場技術の曖昧さの解決を図っていかなければならないことになる。二つ目はポジショニングとは患者様の動きのコントロールであるにも係わらず、その基礎学問である運動機能解剖学を撮影技術の構築の根幹の一つに据えていないところに曖昧さが生じる大きな原因があると見ている。この見方が適切だとすれば、撮影技術の構築に運動機能解剖学的要因を積極的に導入することが必要であり、運動機能解剖からみたポジショニングの根拠の提示や、受傷に伴う運動機能障害に配慮した応用撮影技術の構築など、具体的な現場技術の構築の提示とその普及を図っていかなければならないことになる。三つ目は、いつの時代においても診断に有効な画像の提供と被曝低減の促進は課題であり、画質制御・線量制御技術の進歩発展に取り組まなければならないということである。特にDigitalシステムの画質制御・線量制御技術の柔軟な技術開発の取り組みと、その開発手法と成果の普及などが必要だと考えている。
皆様は、既にこのような課題を解決するために、確かな臨床X線撮影技術を確立したいという目標を持って検討されておられますが、しかし、具体的な取り組みで悩んでおられる方が多いのではと思っている。そこで今回は第1回全国X線撮影技術読影研究会の発足にもあたることから、与えられた表題とは少し異なるが皆様の課題解決のヒントとなるように、1)X線単純撮影技術の組み立て過程の見直し 2)運動機能解剖学的要因のポジショニングへの導入 3)FCRを用いた被曝低減システム構築について講演をした。
1 X線単純撮影技術の組み立て過程の見直し
1−1 技術組立てのロジックを明確にすること
Positioningの構築・比較で曖昧にならないためには、技術組立てのロジックを明確にし、そのロジックの上に立って内容を吟
味することがポイントとなる。その手始めは診断サイドの何を見たいのかの要求目標像を明らかにすることである。そして、
それがどのような画像の表現分類に当たるかを分類整理し、その分類整理からどのような目的の撮影技術を作ればよいのかを
明らかにすることが、技術を組み立てる上で大事なこととなる。さらに組み立てるに当たっては、どのような考え方とデータ
利用方法をとったのかを明確にすることが曖昧さをなくすポイントとなる。(この部分の詳細は省略)。
1−2 撮影技術の組み立てでは3- D運動機能軸を基準に据えて確実に設定すること
運動機能を有する整形外科領域のPositioningとは、被写体の水平・矢状・前額面に分布する構造体の投影制御だが、実際は
人体の運動機能3軸とX線入射の制御で行っている。
Positioningを曖昧にさせないためには、この運動機能の基本3軸(屈曲伸展軸:X軸・回旋軸:Y軸・内外転軸:Z軸)が、
被写体のそれぞれの設定基準軸として用いられ、3軸が必ず制御されていることがポイントとなる。図−1に機能軸の制御、図
−2に正面撮影における各運動機能軸の設定と投影平面の関係を示す。
図―1 運動機能軸の制御 図−2 正面撮影での機能軸設定と投影平面
1−3 撮影技術の組み立て方を理解し、標準撮影からの新たな撮影技術の組み立てのポイントを知り、現場技術の精度を
高めること
標準(正面・側面・軸方向)撮影で目的の像が得られない場合は、その目的に合った新たな撮影法が作り出されるが、こ
の時、いずれも正面からであったり、側面だったり、軸方向など、元の撮影法から出発した撮影技術として整理することが
出来る。図−2の正面撮影を例にすると新たな撮影法の開発は、図−3のように、回旋軸:Y軸変換を行うと斜方向撮影に
なり、屈曲伸展軸:X軸変換を行うと軸方向になり、両者を同時だと半軸斜方向で、それぞれに目的に合った変換角度とX
線入射角度を求めて新たな撮影法が作られる。ここで良く見ると、正面からの新たな撮影法を構築するときには、投影平面
の軸方向となっている機能軸(内外転軸:Z軸)を基準軸として固定して、他の二軸の変換軸位置を確定させた上で、他の二
軸の変換を行っていることがわかる。この意味するところは、そもそも三次元物体の設定は三次元の基準3軸の内の1軸を
決めて基準軸として固定しそして他の2軸を設定して行われるのである。この基本はX線撮影のPositioningにも共通する
ものであり、被写体設定の3軸の内、1軸を基準軸として固定することで他の二つの変換軸の位置を決め、その状態でそれぞ
れの変換軸ごとに目的に合った適切な角度を求めて撮影法が作られる。この一連の流れを見ると、Positioningでの曖昧さを
なくすポイントは、変換軸の設定角度のみに気とらわれるのではなく、むしろ、被写体設定の基準軸をまず正しく設定・固
定することが大事なのだと言うことがお分かりいただけたと思う。そして、重要なことは図−4に纏めたように、正面・側
面・軸方向のそれぞれで、基準軸と変換軸が変わってくることの認識を正しく持って、そして、現場の撮影技術に取り組む
ことにある。なぜならば、この基準軸設定精度維持が曖昧さを減らす大きなポイントの一つになるからである。
撮影法の書籍には、変換軸の角度設定は詳しく記述されているが、私が提案したような概念の撮影技術の展開をしている本
は殆ど見られない。当然ではあるが、現場ではこの基準軸の設定こそが大事だと述べているものは皆無であり、この辺りに
現場技術の曖昧さが発生する原因があるように思っているので、もう一度、原点に帰って技術のあり方を見直してもらいた
いと思っている。
図−3 正面からの新たな技術開発 図−4 撮影方向で基準軸が違うので注意を
1−4 撮影技術の組立てチェックシートの提案
自分がこれから撮影しようとしている撮影法が、いったいどのような組み立て方の撮影技術なのか、そして、基準軸がどれなのかをチェックできるシートがあれば便利である。そこで、1−3)まで組立てに関連して種々の分類整理をしてきた項目を、図−5のような撮影技術の組立てチェックシートにまとめて提案をした。講演ではチェックシートの詳細解説をし、使用例として尺骨神経溝、手根管撮影、Stryker法、Anthonsen法などに解説を加えたが、ここでは図−6の尺骨神経溝撮影技術a・b法の違いを、図−7のシートの解析結果として提示した。
図−5 撮影技術の組立てチェックシート
図−6 二つの尺骨神経溝撮影技術 図−7 撮影技術開発の違いの解析結果
尺骨神経溝撮影a法は、肘関節正面からの技術開発で、正面からの構築なので基準軸は上腕の内外転軸となり、これを固定して内外転させないことがこの撮影法の最大のポイントで、残りの変換軸の屈曲と外旋位をそれぞれ設定して撮影をすることになる。一方、尺骨神経溝撮影b法は、上腕骨軸方向からの技術開発とみなせ、軸方向での構築なので基準軸は上腕の内外旋軸となり、これを固定して回旋させないことがこの撮影技術のポイントとなり、残りの変換軸の屈曲と外転位をそれぞれ設定してPositioningは完成することになる。尺骨神経溝の例を挙げたが、このチェックシートを用いて各種撮影法の組立てを明らかにして、そして現場技術の勘所を明確にすることが出来る。チェックシートの詳細説明は紙数の制約で説明不足だが、撮影技術の組み立て方のロジックを明確にする上で、有効なことはお分かりいただけたと思う。
2)運動機能解剖学的要因のポジショニングへの導入
Positioningとは患者様の動きのコントロールであり、運動機能解剖をもっと技術の根幹に据えて技術の組立てをする必要が
ある。
講演では運動機能解剖学からみた撮影技術の改善点について詳細に解説したが、ここではその項目のみを記す。
2-1)関節部を弛緩状態にした整位を標準肢位にする撮影技術の提唱
(例:膝関節側面撮影における屈曲50°(内角130°)の機能解剖からの解説)
(例:膝正面撮影における機能解剖からの屈曲位の解説)
2-2)機能軸の中間位設定を整位の標準にする撮影技術の提唱
上肢帯の機能軸は肘の屈曲伸展で移動する。機能軸中間位の設定は前腕中心軸に一致することから、この機能軸中間位の設定を整位の標準設定肢位とするポジショニングにする。機能軸設定の状態を指標にする撮影技術の構築があることを提唱した。
(例:手関節正面・側面撮影)
2-3)相互に働く拮抗筋の機能を考慮した撮影技術の提唱
(例:股関節正面)内旋筋の作用:外旋筋の作用は、1:3であることから、股関節正面の撮影の工夫を解説した。
2-4)体位・肢位の設定で機能低下・可動制限状態での撮影技術の提唱
(例:Lauenstein氏法)通常の臥位を坐位として撮影する技術を解説
2-5)手術直後の可動制限状態での撮影技術の選択の提唱
(例:人工関節置換後の股関節頸部側)
2-6)ニ関節筋の制御を整位に生かして精度の良い患者さまに優しい技術の提唱
(例:足関節正面撮影)
2-7)体位変換で生じる形態変化を運動機能作用で補正する撮影技術の選択
(例:腰椎側面の側臥位撮影)
2-8)人類学的基準線ではなく目的部の体表指標の設定で整位が成立する撮影
(例:肩関節3方向)
2-9)病態機能制限からの撮影技術の選択
(例:肩関節側面撮影、上腕骨が可動不可能な多発外傷時に立位・坐位が困難な場合の整位)
2-10)病態機能制限からの撮影技術の選択
(例:肩関節軸方向撮影)
上腕骨が可動不可能時に側臥位肩関節軸位撮影に整位について
3)FCRを用いた被曝低減システム構築の話し(詳細は省略)
Digitalシステムの被曝低減の線量制御技術は、Analogシステムの技術の延長線という認識ではなく、Digital画像処理がより有効に働くための、トータル的なシステム機器・撮影技術の選択とその使用条件などの各コンポーネントの最適化を図るところに大きなポイントがある。同時に、今までの撮影システムの各コンポーネントで利点はあるが欠点も出て利点を生かしきれていなかった部分を、Digital画像処理によって欠点をカバーして利点を引き出すような最適化への取り組みも進めなければならない。今後の皆様の積極的な取り組みが被曝低減に大きく寄与することを期待する。ここでは私どもが取り組んで被曝低減を実現させた事例の一つである脊椎側弯症の全脊椎撮影技術を紹介する。
図−8 脊椎側弯症の全脊椎撮影技術
撮影条件 85kV 50mA 20mSec(1.0mAs) SID:200cm 0.2mm焦点
Grid 5:1 (34本/cm) IP:ST-Vn FCR:XG-1
画像処理:(GA:0.7 GT:G GC:0.8 GS:0.3)
Multi周波数処理(MRB:C MRT:P MRE:4.5)
FNC処理(FFC:A FNB:A FNT:A FNE:0.7 )
(被曝低減全脊椎撮影Digital撮影システムの開発で、通常の約1/20以下の被曝低減を達
成した。現在は、1/35程度にまで線量を落として検査を行っている。) (以上)