はじめに
変形性股関節症の読影は,病期分類以外に小児期を含めた病歴の有無や他科疾患,術前後では,術式の決定時期や方法, THA(total hip arthroplasty)においてはセメントの有無やステム表面のコーティングの種類と範囲,慴動面の種類等の理解も必要である.撮影法は,Hip-Spine syndromeや脊柱骨盤アライメント,特に矢状面アライメント異常での骨盤回旋の影響を大きく受ける. さらに, 術前では術式を決定するための撮影法,術後では術式により撮影法も異なる. 疾患の概念,病態,臨床症状,治療法等を知る事でX線画像から何を読み取ればよいのか,さらに必要な所見を正確に描出するためにはどのような撮影法が必要なのか導くことが容易となるはずである.
変形性股関節症とは
変形性股関節症は,一次性股関節症と二次性股関節症に大別される.一次性は,股関節症に至った原因が特定できないものである.一次性の頻度は極めて稀と報告されており,本邦では,Nakamuraらが0.65%としている.二次性は,原因が特定できるものであり,88%が臼蓋形成不全による.二次性の原因となる疾患は他にも非常に多い.
1-1, 変形性股関節症の画像所見
特徴的な画像所見として関節裂隙の狭小化,軟骨下骨の骨硬化,関節適合不全,骨棘形成,骨嚢胞などを認める。いくつかの診断基準があるが本邦では日本整形外科学会 変形性股関節症病期分類が頻用されている.臼蓋形成不全の判定基準(X線学的指標)や,その他の骨盤形態,大腿骨形態,術前後に必要な計測とともに読影・計測のポイントについて述べる.
1-2, THA後の画像所見
THA後の良好な画像所見として,コンポーネントの固定,不良な所見として多くの合併症の中からstress shielding,osteolysis,loosening, ステム周囲骨折について述べる.
良好な画像所見として,骨皮質からステムに及ぶspot weldsや骨皮質の肥厚をともなうcortical hypertrophyがある.これらをセメントレスTHAにおけるMcphersonやEnghの評価基準をもとに,DeLee & Gruenのzone分類に従い読影する.
不良な画像所見では,ステムとの固定が得られることにより生じるstress shieldingについて,Enghのgradingを用い,近位ポーラスコーティングステムとフルポーラスコーティングステムの画像所見を比較する.Osteolysisは,摺動面からの摩耗粉により生じる骨吸収であり,線状でない2mm以上の骨透亮像として描出される. looseningは,radiolucent line, reactive line, ステム先端に生じるpedestalなどがあり,いくつかの評価基準をもとにzone分類に従い読影する.ステム周囲骨折では, Vancouver分類をもとに症例を供覧する.
2,正面撮影
正面撮影で問題となるのは,骨盤と大腿骨近位部をいかに正面投影するかである.正面像は,変形性股関節症における病期判定やX線学的指標,THA後の合併症評価など, 骨盤・股関節疾患の大半が正面像により計測,分類し判定されるため最も重要である.
2-1,骨盤
骨盤の解剖学的基準面である前骨盤平面(anterior pelvic plane : APP)を正面とする.APPとは,両側上前腸骨棘を通る線をX軸,恥骨結合からX軸への垂線をY軸とし,この2軸がなす面をいう.さらにX軸,Y軸の交点を通る線がZ軸であり,3座標系が成立する.すなわちX軸であれば矢状面での変化や回旋を表す.APPは寛骨側コンポーネントやX線学的指標の基準となるため正確な位置決めが必要である.ただし,THAなどの術前や術後に骨盤回旋の影響を評価する場合はこの限りでない.
投影方向は後前方向とするとAPP正面を得やすいが寛骨臼前後縁の拡大率が変化するため前後方向とする.X線中心は,FAI(Femoroacetabular impingement)においてSiebenrockらのstandardized criteria同様にX軸とY軸の交点となる.しかし,この中心は骨盤を基準としているため股関節正面撮影においてはAPPのY軸上,恥骨結合上縁2〜3cm上方を通る点とすべきである.
2-2,大腿骨
大腿骨頚部軸と大腿骨軸が受像面に水平となることが理想である.しかし,解剖学的に両軸が一致しないことも多いため,後顆軸と頚部軸のなす角である前捻角を股関節の内旋により補正することが中心となる.本来,股関節の内外旋の制御は,股関節・膝関節90˚屈曲位とし,基本軸は膝蓋骨よりおろした垂線,移動軸は下腿中央線である.われわれが行っている伸展位では膝関節や足・足関節の影響を受ける.さらに,前捻角は,今井らが健常者77名を検討し平均16.3˚(男性:12.7˚,女性:18.2˚)としているが臼蓋形成不全症の前捻角は,健常者に比べ6〜10˚大きく,Perthes病ではさらに大きいことも報告されている.日常診療においてこれらの疾患と遭遇することは稀でなく再現性に苦慮する. 当院では,ガイドライン記載の通り,両下肢を伸展位とし,10〜15˚内旋(足関節mortis view同様の肢位)している.他にも諸家の報告があるが,ここでは膝関節の機能軸である上顆軸を基準とした方法を述べる.上顆軸は後顆軸に対して平均6.9˚(男性:6.3˚,女性:7.2˚)外旋しており,前捻角が平均16.3˚であることから, 伸展位上顆軸水平から9.4˚内旋すればよい.
撮影時の内外旋のばらつきは,joint space widthに影響を及ぼすため,まずは,検者内・検者間での再現性を高めることが非常に重要である.また,内外転においても関節適合性に影響を及ぼすため,中間位はX軸と大腿中央線を垂直とし,内外転動態撮影では大腿中央線を移動軸とする.
3,側面撮影
側面撮影法は,“何をみたいのか”で撮影法を選択しなければならない.例えば,非外傷性で骨頭から頚部をみたいのか,大腿骨近位部骨折を疑うのか,人工関節置換術前後なのか, 大腿骨近位部骨折骨接合術中・術後なのか,といくつか思い浮かぶはずである.術後の例としてカップやステムのosteolysisやloosening, Hansson pinやラグスクリューのcut outや骨頭壊死がある.重要なのは正面像を読み,患者の過去と今を知り撮影法を選択することである.
4, False-profile view
1961年にLequesneが報告して以来,2000年代に入りほぼ確立された撮影法である.骨頭の被覆や適合性の評価は臥位正面像のみで行われてきたが,本撮影法により前方被覆などが荷重位で計測可能となった.臼蓋形成不全や初期の関節裂隙狭小化,FAIの評価に用いられている.