腹部単純X線画像で診る急性腹症」

九州大学病院 医療技術部 放射線部門   加藤 豊幸

 

 腹部単純X線撮影は,日常診療において多くの施設で撮影され,診断に用いられている.特に救急の現場において,急激な腹痛を主症状とし早急に緊急手術の適否を判断しなければならない急性腹症の診断では,10数年前までは腹部単純撮影はゴールデン・スタンダードの(必ずといっていいほど撮影される)検査であった.しかし,CT・MDCTの出現により,徐々に主役の座を奪われつつあるのが現状である.

 CT・MDCTは,診断感度,特異度,精度に関してはすべて95%以上であり,腹部単純X線撮影のそれを大きく上回っている.しかし,腹部単純撮影の利点として,簡便である,CTと比べて侵襲が少ない・被ばくが少ない,病棟撮影でも画像が取得できることなどがあげられ,今でも有用な検査であるといえる.

単純X線画像は,一般にX線の吸収差によって画像が成り立っており,腹部単純撮影画像についても,以下の4つの濃度について読影することで病変の把握が容易になる.

1)            異常なガス像を呈する疾患(空気濃度)

2)            脂肪濃度のものを含む疾患(脂肪濃度)

3)            液体貯留を呈する疾患(水濃度)

4)            石灰化などの高級収体を含む疾患(骨・高吸収濃度)

腹部単純X線画像の意義を考えたとき,下記のように診断を絞ることができる.

1)横隔膜から鼠径部まで全体が網羅でき(スクリーニング),臓器の位置関係が把握できる

2)濃度差を有する異物や石灰化,ガス像(腸管内ガス,free air)が一目瞭然で,存在部位やその形態が判断できる

3)腫瘤は,腸管ガスの圧排や,後腹膜腔における腎の位置移動や腸腰筋辺縁の状態から存在診断ができる

4)腹腔内,後腹膜腔にある大量の貯留液は存在を指摘しうる

5)治療前後の follow up 目的として極めて有用である

 腹部疾患(急性腹症)は臨床症状(現病歴,理学所見)からある程度は診断が推測されるため,それらの情報と併せて総合的に判断することによって,また腹部単純X線画像の有用性と限界を正しく理解することで,より正確な読影・診断が可能となる.

これを機に,今一度知識の整理をしていただき,腹部単純X線画像を観察することで,今まで気付かなかった陰影やサインを確認できるようになると,より一層理解が深まると思われる.そのための一助になれば幸いである.