「肘関節の解剖と撮影法」

奈奈良県立医科大学附属病院 安藤英次

 

「肘関節の解剖と撮影法」では、主に基本撮影法を含めた疾患別至敵X線解剖と撮影法について解説する。その内容には肘関節のX線画像から知る機能解剖やX線解剖の再認識と、疾患別撮影法の重要性を述べる。

 

この肘関節は上肢の肩関節, 手関節との中間に位置し忘れられた関節でもあるように思える。その整形外科領域でも「肘の専門医」は少なく、そのため放射線技師の撮影技術においても同じである。しかし、この小さな関節は下肢の膝関節と同じ位置しながら屈曲と回旋運動を可能とする。

上腕骨と橈骨、尺骨の3つ骨で構築された肘関節は、屈伸運動(fig.1)の蝶番関節だけでなく回旋運動(fig.2)の鞍関節がある複関節である。この肘関節の骨折や脱臼を投影するには、正面と側面の2方向撮影法以外に両斜位撮影、上腕骨小頭(tangential view )撮影,橈骨頭撮影など,骨折や脱臼を明瞭に投影する撮影技術がある。

  

       (fig.1)                      (fig.2

 

肘関節の正側2方向撮影 >

正面撮影は、肘関節の伸展位で、前腕を軽度回外肢位で投影する。側面は、肘関節が伸展位でなく90°屈曲位で、前腕中間位で手関節を34cm挙げる。この前腕を軽度回外させることによりfig.3)に示す腕橈関節と腕尺関節が明瞭に投影される。その上腕骨遠位端の側面像は(fig.4)に示すように小頭と滑車が重複することで側面性が確認できる。

    

fig.3)                      (fig.4)

   

肘関節の回旋斜位撮影 >

肘関節の正側方向撮影で投影されない骨折像などは、回旋位による斜位像で投影する。外旋斜位撮影は小頭、橈骨頭、腕尺関節、肘頭および肘頭窩を観察する。内旋斜位撮影は滑車、鈎状突起、腕尺関節、肘頭および肘頭窩を観察する。

 

  

fig.5)                   (fig.6)

 

上腕骨小頭(tangential view )撮影 

初診時に上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎が疑われる場合には通常の二方向撮影に両斜位撮影以外に、fig.7)に示す上腕骨小頭tangential view)撮影として45 屈曲位正面撮影がある。この撮影法では伸展位の正面像で投影されにくい軟骨炎像が(fig.8)に示す様に接線像で描出される。

  

fig.7)                    (fig.8)

 

橈骨頭(radial head-capitellum )撮影 

肘関節骨折には、橈骨頭や鈎状突起骨折が好発部位である。肘関節2方向撮影の側面像では、橈骨頭の後半分が尺骨の鈎状突起と重なって投影されるため、骨折診断が容易でない。そこで、(fig.9)に示すX線束を上腕骨の延長線方向から45°斜入することで、橈骨頭後半部分と尺骨鈎状突起との重なりをなくし、上腕骨小頭と滑車との重なりがない投影像(fig.10)となる。

 

  

fig.9)                    (fig.10