「脊柱管狭窄症を読む」 愛媛十全医療学院附属病院 上田剛史

 

腰部脊柱管狭窄症において、複数の椎間に圧迫病変がある場合は責任病巣の同定が画像所見だけでは難しい症例が多数あります。また、硬膜管の圧迫の原因はさまざまあります。

 

腰椎は椎体と左右後方から延びた椎弓根と椎弓板が連結し椎孔を形成します。椎弓からは左右1対の上関節突起と下関節突起が突出し、後方には棘突起が突出しています。椎弓根から横には肋骨突起が突出しています。

腰椎は、主に椎体、椎間板と椎間関節が上体を支えて、かつ屈曲・伸展・回旋できるような構造になっています。上関節突起と下関節突起により椎間関節が形成され、連結しています。脊椎の椎孔が連なってできた細長い空間を脊柱管といいます。腰椎の解剖学的な構造として、前方の荷重を支えるのがクッションの役割の椎間板であり、後方の荷重を支えるのが椎間関節です。腰を前かがみにして、腰椎前方に荷重がかかると椎間板に負荷がかかり、逆に腰を後に反らせて腰椎後方に荷重がかかると椎間関節に負荷がかかります。

 

椎体の前方は、前縦靭帯で連結し、後方は後縦靭帯で連結しています。椎弓は黄色靭帯が左右に分かれ連結しています。棘突起は棘間靭帯と棘上靭帯で連結しています。脊柱管内には後縦靭帯と黄色靭帯が位置しています。

 

神経根は馬尾から枝分かれし、椎間孔を通って脊柱管の外へ出ています。馬尾は脊柱管に囲まれた硬膜管に包まれ、硬膜管の前方には後縦靭帯、左右の後方は黄色靭帯が接しています。

 

腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管内を走行している神経組織(馬尾、神経根)に対する周囲組織(骨性・軟部組織性)の機械的な圧迫により、神経症状が引き起こされた状態です。

 

特徴的な症状は間欠性跛行といい、歩行すると下肢のしびれが出る。前かがみで小休止すると軽快して歩けるが、しばらく歩くとまたしびれる。歩行症状の発現や憎悪が認められる場合、脊柱管狭窄症や下肢の閉塞性動脈硬化症が考えられます。

初診→手術→経過観察までの流れ


・初診時

腰痛発現

@X線単純撮影(神経学的所見)

AMRI検査(硬膜管の狭窄所見)

B神経根ブロック(責任病巣の同定)

CMyelo GraphyCT検査(手術適応疾患)

D手術

・手術後

EX線単純撮影(経過観察)


 

皮膚の表面はデルマトーム(皮膚知覚帯)と呼ばれる特定の領域に分かれており、各区分を1つの脊髄神経根の感覚神経線維が支配しています。神経学的所見として、重要視されています。

C:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド14.JPGC:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド15.JPG

 

正面像では骨棘形成、変性側弯の程度、椎間腔や椎間関節の状態、椎弓根の形を見ます。

側面像では、椎間腔と椎間孔を正しく描出し、すべりの程度や脊柱管内の圧迫の原因となるものを探します。

脊柱管狭窄症の診断には斜位撮影も必要とされます。狭窄の原因を探すには正面と側面像だけでは情報が少なく、斜位像に硬膜管と神経根のイメージを重ねて、左右それぞれの狭窄の原因を探します。

腰椎の退行性変性

 身体は椎間板の変性を、骨の反応性変化によって保証しようとする。椎体の辺縁には骨棘が形成され、これによって荷重のかかる面積が拡大するため、椎体関節面への負担が軽減し、運動部分の安定性が高まる。似たようなプロセスが椎間関節でも生じ、それに伴って脊柱管と椎間孔が狭くなり、脊柱管狭窄症が起こる。

 

正面像で骨棘の形成、変性側弯の程度、椎間腔・椎間孔の狭小化を確認し、側面像で骨棘、すべりの程度、椎間孔の大きさや椎間孔内の圧迫の原因となるものを確認します。

C:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド34.JPGC:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド32.JPGC:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド33.JPG

すべりの程度が分かるように、側面像を撮影する前に正面像を確認し、X線中心の高さと照射方向(RLLR)を変えています。

腰椎4方向撮影後すべりがあれば側面での前屈・後屈の追加撮影を行います。同部位が痛みの原因であり不安定な状態が確認されれば、脊柱管の除圧に加え椎体間の固定手術が行われる場合があります。

画像では前屈と後屈とで、すべりの程度が変わっているのが分かります。この時、棘突起のずれの差が大きい場合は変性すべり、小さい場合は分離すべりと判別できます。狭窄部位が不安定な場合は椎体間の固定が行われます。

 

C:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド37.JPG

椎体間固定術は左右の椎弓根にスクリューを挿入し、椎体間にケージを入れ、すべりを抑制しています。

 

手術後は骨の癒合をみる経過観察を単純撮影で行います。手術後は後方の支持が不安定なため、椎弓根にスクリューが正しく収まっていること、すべりの程度や骨折によるアライメントの変化の確認が目的です。

C:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド43.JPGC:\Users\Radiology\Desktop\脊柱管狭窄症を読影する\スライド44.JPG

側弯の場合でも、椎間板レベルに沿った横断像でなければ、圧迫の状態は正しく描出できません。シングルCTでは目的部位に合わせて左右に側屈させて撮影していたので非常に大変でしたが、マルチスライスCTが導入され簡単に描出できるようになりました。分解能もよく単純CT検査でまれに外側のヘルニアの所見を捉えることもあります。

椎体間固定術を行う場合は左右の椎弓を正しく描出すると椎弓根の幅やスクリューの挿入方向や椎体の状態が事前に確認でき、手術時間の短縮にも繋がります。側弯症の場合も椎体間固定術後の単純撮影は重要です。骨癒合の状態、アライメントの変化、骨折の確認をします。

 

変性腰椎(脊柱管狭窄症)のModic change

 

MRIの画像所見より、変性腰椎の骨性終板の輝度変化をModic changeと言います。

椎間板の変性による脊柱管狭窄症では、MRIの画像所見に骨性終板に輝度変化が認められる症例があり、モーディックチェンジと呼ばれています。

 

なぜ腰椎立位撮影が必要なのか?

脊柱管狭窄症の症状の多くは、立位時の日常動作中に出現する。その状態における椎体・椎間関節のアライメントを診るためには立位での撮影が必要となる。脊椎側弯症や腰椎すべり症は、臥位撮影では側弯やすべりの程度が実際より小さく現わされ、正しく診断できない場合がある。また、安静時に症状が現れる場合には転移性腫瘍など脊椎疾患とは異なる病気が疑われる。

 

立位撮影のメリット・デメリット


メリット

1.        X線中心の高さを目的部位に合わせることで椎間腔と椎間孔の描出が容易

2.        側面での前屈・後屈位が容易であり、椎体の動きをとらえやすい。

3.        側臥位に比べ、椎体のねじれが少ない。

4.        椎体レベルの高さが画像上でほぼ同じ高さで描出できる。

デメリット

1.        再現性が難しい。

2.        臥位と比較し、動きの影響を受けやすい。

3.        短時間での照射となるため、画質が悪く、骨梁の診断には適さない。

4.        脂肪のたるみなどの影響で撮影条件が高くなる場合がある。


 

まとめ

 脊柱管狭窄症においては、単純撮影と神経学所見によりMRI検査を行うことが通常である。単純撮影の情報が乏しい場合には、MRI検査においても情報が少ない画像ともなりうる。そのために、情報のある単純撮影にて狭窄の原因となるものを予測し、責任病巣の描出を目的としたい。