胸部単純写真の読影2008

 

愛媛県立新居浜病院 

原 正和

 

胸部単純写真の読影は、シルエットサインを理解しテクニックとして応用することが存在診断において重要である。今回は実際に症例を読影し、読影方法を身に付けることを目的とする。

 

症例1

右肺門部、右心第1弓に接して腫瘤を認める。右心のシルエットは明瞭に描出されていることから(シルエットサイン陰性)腫瘤は心臓と接しておらず、心臓より背側(S6)に存在すると考えられる。

 

肺癌(扁平上皮癌)

腫瘍は右肺動脈および胸壁に接して背側に位置し縱隔胸壁浸潤を疑わせる。右房とは離れて存在する。(右第1弓シルエットサイン陰性)

 

 

症例2

A-P window(大動脈肺動脈窓)の消失より大動脈弓と左主肺動脈の間に腫瘤の存在が疑われる。下行大動脈のシルエットサインは陰性である。

 

肺癌(扁平上皮癌)

左肺門部肺癌は胸部単純写真上A-P windowの消失により発見されることがある。また、この位置には縱隔リンパ節(#5 subaortic, botallo’s)があり、リンパ節転移などで腫大すると、A-P windouの消失をみる事がある。

 

右側正常例では大動脈肺動脈窓の位置に三角形の形をした肺が透見されている。

 

 

症例3

左肺底部に腫瘤を認める。横隔膜のシルエットサインを読むことで病変を容易に見つけることができた症例。(左横隔膜シルエットサイン陽性)胸部単純写真を眺めていただけでは見つけることは困難である。

 

肺野末梢型肺癌(腺癌)

左肺S10に胸壁に接した腫瘤を認める。

 

 

症例4

胸部単純写真上、下行大動脈、左横隔膜の輪郭が消失(シルエットサイン陽性)していることから、心臓と重複した広範囲な病変が存在すると示唆される。また、気管の左方偏位より、左肺の容積減少が推測されるため、左下葉無気肺が診断名として挙げられる。

 

慢性気管支拡張症による左下葉無気肺

下行大動脈、後胸壁に接して広範囲に病変を認める。(シルエットサイン陽性)左心とは離れて存在している。(シルエットサイン陰性)左下葉無気肺は、胸部単純写真上、心臓と重複して描出されるため、シルエットサインによる読影をしなければ診断困難である。

 

 

症例5

左肺野の透過性が全体的に低下し、気管は軽度左方に偏位している。下行大動脈、横隔膜のシルエットは追えるが大動脈弓は不明瞭である。立位正面像であり、左肋骨横隔膜角が描出されていることより胸水貯留は考えにくい。気管の非健側への偏位より含気の減少が疑われ、大動脈弓のシルエットサインが陽性であることより、大動脈弓に接した無気肺、即ち上葉無気肺が推測される。

 

肺門部肺癌

大動脈弓に接して無気肺様陰影が認められる。大動脈弓のシルエットは一部消失している。左肺門部肺癌の気管支閉塞による無気肺であると考えられる。

 

 

症例6

肺野に明らかな異常陰影は認められず、縱隔心臓大血管のシルエットも保たれている。気管の偏位もなく一見正常にみえるが、よく見ると気管の左縁が見えにくく(右気管傍線の消失)、上大静脈も少し肺野に張り出しているように見える(縱隔陰影拡大)これらの所見より気管に接した縱隔腫瘍が疑われる。

 

肺癌(小細胞癌)の縱隔リンパ節転移

気管と上大静脈の間に腫瘤が認められる。正常では気管と右肺の間は縱隔脂肪層で隔たれているため、胸部単純写真では、右気管傍線として描出される。気管に接して腫瘍が存在すると縱隔脂肪層が無くなり、気管の辺縁(右気管傍線)が消失する。また腫瘤が大きくなり上大静脈を圧排すると、縱隔陰影の拡大として示現する。

 

 

シルエットサインによる読影と胸部単純写真撮影時の注意事項について

 

シルエットサインはX線の透過性の差を利用して読影するため以下の事項に注意しなければならない。

 

1 適正条件で撮影されていること。

(最近はほとんどの施設でCR,DR化されていると思うが、デジタル画像の場合パラメータ設定については、肺野がよく見える状態でシルエットサインが読影できるレベルに縱隔中央陰影部を描出することが、良い胸部写真として重要である。)

 

2 適正なポジショニングで撮影されていること。

(真っすぐな正面像が必要で、傾いているとシルエット自体がみえない)

 

3 水濃度と水濃度の陰影であることが必要。

X線の透過性が同じであると辺縁は描出されないため、シルエットサインは陽性となる。)

 

 

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