軽度屈曲させる膝MRI

済生会西条病院 画像センター 藤田 裕二

なぜこの題目か?

MRIを始めるとき、「膝は軽度屈曲させてポジショニングして撮影するように」と教えてもらった。なぜ膝のポジショニングは軽度屈曲なのか?伸展、屈曲させすぎるといけないのか?と疑いの念から。

T.膝の解剖(靭帯)

U.膝MRIの撮影・読影ポイント

      MRIの適用:膝内障、変形性膝関節症など。

膝内障=骨や関節には損傷はないが、スポーツなどの外傷によって起こる膝関節障害。(各靭帯損傷、半月板損傷)

      前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、内外半月版、内外側副靭帯、膝蓋靭帯、大腿四頭筋腱などをチェック。

      あらゆる撮像法で低信号を示す靭帯が、損傷・断裂を示す高信号が描出されていないか?半月坂内に関節面に連続した、損傷を疑う高信号は描出されていないか?などを読影。

      膝内障において、もっとも多い損傷は半月板損傷とACL損傷である。

 

      よって、膝MRI撮影ではACLと半月板の描出が大切である

 

 


      しかし、その他の部位の描出も怠ってはいけない

 

 


      そこで、本当に体位は軽度屈曲が良いのか、体位によってどのようにそれぞれの部位がどのようにかわるのか、実際に撮影して検証してみた。

V.撮影方法

軽度屈曲・伸展・過屈曲の3体位で撮影し、検証する。

当院で行っている軽度屈曲の角度は15度なので、軽度屈曲の角度は15度とした。出来る限りの過伸展0度コイル内での出来る限りの過屈曲30度の3体位で撮影。

30度

 

0度

 

15度

 

 

 

 

W.実際に撮影した画像の検証

●過伸展(0度)

左から、ACLに合わせて撮影したsaggital像、正矢状断saggital像のPCL、coronal像。

●軽度屈曲(15度)

左から、ACLに合わせて撮影したsaggital像、正矢状断saggital像のPCL 、coronal像。

●過屈曲(30度)

左から、ACLに合わせて撮影したsaggital像、正矢状断saggital像のPCL、coronal像。

結果を表にすると・・・

 

ACLは過伸展0度の時は前縁が不明瞭、軽度屈曲15度の時は前縁明瞭、過屈曲30度の時は多少緩んでいるように見える。

PCLは多少の違いはあるものの、全ての体位において明瞭に描出された。

●内外半月板、内外側副靭帯、膝蓋靭帯もPCLと同様。

●これらの結果からACL以外はどのような体位でもほとんど変化はなく、ACLのみが体位によって変化することがわかり、ACLの描出を明瞭にすることでほとんどの部位が明瞭に描出されることがわかった。

              よって・・・

 

MRIでの最適な体位は教えてもらったとおり15度軽度屈曲であることがわかった。

W.原因検索 

なぜACLが体位によって見え方が変わってくるのか説明します。

 

 

●伸展膝でのACLは・・・

@    大腿骨顆間窩上縁とACL前縁が密着してしまい、ACL前縁の評価が困難になる。

A  解剖学的にACLの大腿骨付着部の描出が大腿骨顆間窩上縁とのpartial volumeにより不鮮明になる。

15度

 

0度

 

●軽度屈曲させることにより・・・

ACL前縁は顆間窩上縁の骨端と離れ、ACL全容が描出され、大腿骨付着部およびACL前縁が明瞭に描出される。当院での軽度屈曲角度は15度

15度

 

0度

 
 

過伸展0度と軽度屈曲15度のACL−顆間窩上縁面積比

 

※図を使って説明します。

 

P

 

P

 

A

 

A

 

P

 

P

 

A

 

A

 

      ACLには前側を形成するAMBと後側を形成するPLBと呼ばれる主要繊維束がある。

      伸展位では、大腿骨付着部から脛骨付着部にかけてAMB(AA)は外顆内側面に密着する。

      屈曲位ではAMB(AA)は固定されたまま大腿骨付着部から離れ、PLB(PP)側がよじれてくる。

      PLBは屈曲によりねじれることと、解剖学的に靭帯繊維の密度が粗であり脂肪組織が含まれていることから不明瞭に描出される。

      PCLはACLと異なり、ほぼ同一組織で出来ているので全体が明瞭に描出される。

      ACL全体としては最大屈曲時と90度屈曲時に張力を増すが、45度付近では若干緩む。

      ACL(AMB)は軽度屈曲時に最も明瞭に描出される

      よって、屈曲させすぎるとACLが緩んでしまいきれいに描出されない

 

X.考察

      膝内障の中ではACL損傷が最もよく認められ、膝MRIではACLの描出がもっとも大事である。

※その他の靭帯に比べてACLは靭帯繊維自体の細さや小さな靭帯付着部などの解剖学的に脆弱である。→故に損傷が多い。

 

      ACL損傷の中でも常に緊張しているAMBの損傷がほとんどで、屈曲によってねじれて緩むPLB損傷はほとんどない。

※損傷がほとんどないのでACL後縁はMRI上ほとんど必要なく、画像上不明瞭でもかまわない。

 

      ACL損傷はACL中間部に続いて大腿骨付着部の損傷が多く、その描出も大事である。

 

      PCL損傷はかなりの強力な外力以外は損傷することがないので、靭帯損傷の中でも最も割合が少ない。

 

      今回実践した検証によって、教えてもらったとおり15度軽度屈曲が最適なポジショニングであることがわかった

 

      15度軽度屈曲はACLを明瞭に描出する為の体位であった。

 

      15度軽度屈曲によって、ACL以外の部位の描出も損なわれないことがわかった。

MRIでは雑にポジショニングするのではなく、伸展膝になっていないか?しっかり軽度屈曲(当院では15度)のポジショニングがとれているか?を確認して撮影することが大切である。

 

 

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