「立花病院での3年を振り返って」

 

医療法人社団久和会立花病院 川端 勇介 

 

私が立花病院に入職したときに、最初に技師長に言われたことがある。それは、

診療放射線技師は一般社会人であるということ、診療放射線技師は患者様を相手にする医療人であるということ、それから、「まずは私の行動をそのままコピーしてください」ということであった。あれから3年間、技師長と主任のやることを真似し、コピーしながら色々なことを教わってきた。

 

最初に教わったことは患者接遇であった。患者接遇で最も大切なことは、患者様の立場に立って考えるということである。患者様は身体的、精神的に多くの不安を持っている。従って、常に笑顔を絶やさないこと、患者様と同じ目線に立つこと、礼儀正しく優しい言葉遣いをすること、患者様の気持ちに気持ちで応えるということを常に頭に置いて患者様に接することを心掛けた。出来るだけ患者様に安心してもらうように気を付けた。

普段は簡単にできることであっても、自分の体調が悪いときや、忙しいとき、夜中に呼び出されたときなどはなかなか難しく、患者接遇というのは一番の基本でありながら一番難しいものだなと実感した。これも患者接遇の一環だが、患者様が撮影室に入ってから撮影準備をするのではなく、患者様が撮影室に入る前に撮影準備を整えておくことを心掛けた。朝出勤したら、ブッキーテーブルや装置、自分や患者様が触れる部分をアルコール消毒し、患者様を撮影室に入れる前に撮影室を整理整頓し、管球やカセッテのセッティングを済ませてから患者様を撮影室に入れるようにした。患者様に不快感を与えないように、患者様を待たせないように気を付けた。そして患者様に検査の説明をし、患者様の状態を把握することも心掛けた。どこの部位の撮影を何回行うのか、どういう検査をするのかを説明し、患者様とのコミュニケーションのなかで、耳が遠くないか、体に不自由な所はないかなどに気を付けた。患者様に不信感を与えないように、患者様に気を配れるように心掛けた。

 

次に、検査をする前には必ず予習をし、イメージをもって検査に望みなさいと教わった。患者様を検査室に入れる前から写真が出来あがるまでの自分の行動を一通りイメージして検査に望むようにした。一般撮影では、どの部位を撮影するのか、患者様への説明はどのようにするか、撮影部位が複数の場合どういう順番で撮影を行うか、どういう順番で撮影を行えば患者様の体位変換が一番少なく患者様が楽か、どういうポジショニングでどこにセンターを入れるか、そして最終的にどういう写真が得られれば良いかということを頭の中でイメージしてから撮影に望むようにした。

造影検査でも同じで、どの部位を造影するのか、患者様への説明はどのようにするか、造影剤は何を使うか、使用機器はどうか、どういう手順で検査を行うか、そして、どういう写真が得られれば良いかということをイメージした。このようにイメージすることで検査がスムーズに行えた。検査する側がバタバタしていては、患者様の信頼を得ることもできず、良い検査もできないと感じた。

そして、最後に自分の一連の行動を第三者の目から見て自己評価をした。常に笑顔でいられたか、言葉遣いはどうだったか、スムーズに撮影できたかということを第三者の目から見て自己評価し、悪かった所の反省をするようにした。

そして、これは3年間毎日のように言われ続けてきたことであるが、骨、臓器、脈管の正常解剖、構造物を理解するということである。ポジショニングをするにしても、写真を診るにしても、まずは正常解剖を理解してやりなさいと教わった。

そして最初に一般撮影、CTで骨、臓器、脈管の同定ができるように勉強した。そして次に肝区域の同定、肺区域、区域気管支の同定、脳葉の分割および脳回、脳溝の同定、脳血管支配域の同定、動脈、静脈の同定ができるように、何度も自分でシェーマを描いたり、教科書を読んだりした。技師長が「ここの脳回は?」とか、「これは何番の区域気管支?」とか、不意打ちのように質問してくることがしばしばあり、その度にわからなかったら復習、教科書を見直すという風に少しずつ3年間勉強してきた。正常解剖を理解する一つ目の理由は、正しいポジショニングをするためである。正常解剖をしっかりと理解し、自分の基準線をきちんと持っていれば、X線写真は影絵なので、影絵をみながら正しいポジショニングができる。診療放射線技師の技術レベルの差によって起こる診断能の低下による患者不利益がないように、ということをよく言われた。

 

ポジショニングを勉強する際には、撮影法をまとめたノート(図1)を作成した。このノートには、条件や、自分の基準線、センター、教科書には載っていないような技師長や主任に教えてもらったコツ、それぞれの写真のチェックポイントなどをまとめてある。3年間、技師長と主任の下でポジショニングの勉強をしたが、これは私が技師長と主任を尊敬する点でもあるが、ポジショニングに関しては物凄く厳しく指導されたと思う。

ルーチンの一つ一つのポジショニングから、同じ部位の撮影でも新患とフォローアップの患者様との撮影法の違い、受傷機転によるセンターの違い、例えば、同じ腰椎の指示であっても腰痛の患者様にはL4,5にセンターを、尻餅をついた患者様には上位腰椎にセンターを入れ、センターの位置は違うが、

フィルムに写る腰椎はL3がフィルムの真ん中に写る様に、センターとフィルムの位置を動かして撮影するように教わった。これも正常解剖がちゃんと理解できていないと出来ないことである。

 

常に医師はどういう写真を求めているのかということを考えて撮影しなさいと教わった。それと、もう一つ尊敬することは、常に新しいものを取り入れようとする姿勢であった。色々な雑誌などで、新しい撮影法が載っていたりすると、それを何度も何度も自分たちで検証し、患者様、病院にとって有益であると思えばどんどん取り入れていった。一年ほど前に膝関節内側関節面を抜くための補助具を作成したが、この補助具を作成する時にも、色々な文献を読み、透視台で何度も自分たちの膝をみて内側関節面が抜ける角度を測定したり、膝の3D-CTを作成したりと、ありとあらゆる方法で実験して、立花独自の補助具を作った。自分たちに有用な物は、納得のいくまで実験をして取り入れたり、新しい物を作ったりする姿勢をこれからも持ち続けて行きたいと思う。

 

 

正常解剖を勉強する

二つ目の理由は異常を見つけるためである。異常というのは人それぞれ違うが、正常解剖は一緒であるので、画像をみて、正常でないものを見つければ異常が見つかるのである。正常解剖が理解できていないと異常を発見するのは難しい。

放射線技師が読影できないと、医師の求める写真は作れないということを教わった。

そして3年間、読影できるように勉強した。そして、症例ノート(図2)というものも作成した。一般撮影やCTで何か症例があったらその都度このノートに書き込むようにしてきた。このノートの中には、年齢、性別、受傷機転、簡単な所見、骨折の分類などがあれば分類をし、簡単なシェーマや、その症例に対してオペが行われればオペの内容や方法などをシェーマ付きで書いておいたり、その時その時で、何か感じたことや思ったことや反省することなども書くようにした。

ルールとしてなるべく英語で記入するようにしていたので、このノートをつけることで、カルテでよく使われている英単語なんかはすぐ覚えることができた。また、受傷機転と病名とのつながりがよくわかるようになった。この症例ノートは要点だけを簡単に書いていたが、別に所見用紙というものがあり、フィルム上の全ての臓器を一つ一つチェックしていくようになっている。症例ノートのように沢山書く訳ではないが、二日に一症例程度、自分で何か症例をみつけて一つ一つチェックし、自分の所見やコメントを書いた。所見用紙を書くことで、CT画像をみてどこをチェックしなければならないか、ということが勉強できた。また、病理・病態ノートというものも作成した。所見用紙にいろいろ所見をつけていきながら、そのときにあった疾病の病理、病態を辞書や教科書で調べてまとめた。同時に読影の際のポイントなども書いた。こういう疾病の病理、病態の勉強も3年間やってきたことの一つである。

 図1.撮影法ノート

図2.症例ノート

 働き出したときに、技師長に一日一つの英語を覚えなさいと言われ、英単語の勉強も3年間してきた。基本的な解剖の用語から、疾病名、症状などの英語を気が付いたときに少しずつ覚えていった。最初は何で英語の勉強をするのかわからなかったが、英単語を勉強して一年程経って、徐々にカルテが読めるようになり、自分でも英語で所見をつけたりできるようになり、仕事が楽しく感じるようになった。

 

 

この3年間で一番勉強したなと思うのは、整形外科の勉強でした。

整形の症例もCTなどと同じように所見をつけてきましたが、自分でシェーマを書いて所見を書くと、当院の整形の先生が赤ペンでチェックしてくれたり、いろいろ補足してくれたりした。自分で所見を書くだけではなくて、このように専門の先生にチェックしてもらうことで、大変勉強になった。整形の勉強の一環として、整形のオペもほとんど入ってきた。オペの手順をまとめたノートも作成した。オペ室でオペの手順を見ておいて、レントゲン室に帰ってからまとめた。私が経験したオペの手順は全部このノートにまとめてある。このノートを作った理由は、医師がいつイメージを見たいのかということを知るためであった。医師と同じ考えを持ってオペに入ることで、仕事がスムーズにできることは言うまでもなく、診療放射線技師として一番気を付けておかなくてはいけない、患者様や医療従事者の放射線被曝を最小限に抑えることができたと思う。これは、透視台を使った検査でも同じことが言えると思う。

 

当院では、撮影した写真は一週間、外来で保管されてからレントゲン室に戻ってくるようになっている。従って一週間前に撮影した写真がレントゲン室に帰ってくると、一つずつシャウカステンにかけて、写真の画質やポジショニングの評価をし、写真のチェックポイントをみていき、異常の有無、読影をした。これは日課であり、3年間一日たりとも欠かしてはいない。一日に見る写真の量は多くはないが、3年間、自分たちの撮影した写真の全てを再度シャウカステンにかけ、このように評価し読影してきたことは、改めて考えるとすごいことだなと感じる。この様に3年間写真をみてきたことで、写真をみてすぐに色々チェックや評価ができるようになり、正常を目に焼き付けることで、異常がすぐに目に付くようになった。

   図3.写真のチェック

 

毎日ではないが、日記を付けることも心掛けた。見開き1ページを1ヶ月分の日記帳として、仕事をしていて感じたことやミスをしたときに、その反省として付けた。今読み返してみると、3年前、自分はこういう勉強をしていたのだな、とか、こういう気持ちで仕事に取り組んでいたのだなと思い出します。働き出してちょうど3年が過ぎ、色々な検査が一人で出来るようになり、

慢心する時期でもあるので、たまにこういうものを読み返して初心を思い出すようにしている。

 

このように勉強しながら、3年間で6回の勉強会での発表と1回の論文投稿をすることができた。

この中で心に残っているのは、3年前の研修会で初めて発表させて頂いた「診療放射線技師になって半年 心がけている事」です。このときは、放射線技師になって半年のときに、どのようなことを勉強しているか、何を心掛けて仕事をしているか、患者接遇やポジショニングをしているのかということを発表した。今考えてみると、3年前、これからこういうことを勉強しなければいけないと思っていたことや、こういうことを心掛けていこうと思っていたことを、今まで頑張ってやってきたのだなと思う。

次に思い出深いのは、第17回放射線技師研修会「整形外科領域における骨の正常変異について」という演題で発表させて頂いたことである。今まで整形外科に興味を持って色々勉強してきたのも、この発表がきっかけであった。骨にはどのような正常変異があるのか、それは何故発生するのか、どの位の確率で発生するのかというのを色々な教科書や文献で調べ、自分でその正常変異の統計をとって発表した。

そして次の木曜会での「膵腫瘤性病変におけるCT造影法の検討」という演題での発表は、私の今までの発表の中で一番緊張した発表であった。発表が終わり、技師長に食事をご馳走になったのだが、緊張のあまり胃が痛くて、発表が終わっているにも関わらず全然食べられなかったのを思い出す。大変良い緊張感であった。そして第18回放射線技師研修会で「剥離骨折について」という演題で、剥離骨折の発生機転や、関与する腱、靭帯に、骨折の分類なども交えて発表させてい頂き、今年の東予部会で「整形外科領域の画像読影と疾患分類」という演題で発表させて頂いた。このとき、自分の持ち時間は本当は30分だったのだが、原さんの持ち時間を10分分けて頂き、40分間発表させて頂いた。そして木曜会雑誌の論文投稿では、小児の骨端線損傷について勉強し、論文を書いた。

このようにして発表してこられたのも、周りの人が支えてくれ、盛り上げてくれたからだと思う。発表する前は、面倒くさいなとか、大勢の前で話をするのは嫌だなとか思うこともあるが、発表が終わってみると、いつも発表して良かったなと思った。

発表して良かったと思うことは、まず、色々な人に自分を知ってもらうことができた、覚えてもらうことができたということである。そして、人前で話すことにも少しは慣れた。それと、目標を持って仕事や勉強ができた。そして、1のことを発表するためには10のことを勉強しておかなければならず、たくさんの知識が身に付いた。立花病院に就職しなかったら3年間で6回も発表することはできなかったと思う。これからも出来るだけこのように進んで発表していきたいと思っている。

 

この3年間でもう一つ勉強できたことは、人間関係であった。

このように、勉強会に出席することの大切さ、いろいろな人とお話させて頂き、親しくなることの大切さ、そういうものをこの3年間で勉強することができた。今まで3年間大変だなと思うこともあったが、こうやって勉強してこられたのは、技師長や主任が引っ張ってくれたこと、そして、頭ごなしに勉強しろと言うのではなく、一緒に教科書を読み、資料を作って、一緒に勉強してくれたこと、それから周りの人が自分を支えてくれたこと

が私には大きかったと思う。

今勉強していることの一つ一つが、最終的に患者様のための医療に結びつくのだと思う。これからも、技師長、主任をはじめ、皆さんに教えて頂いた、心のある医療を実践できるように頑張りたいと思っている。

HOME