「剥離骨折について」

医療法人社団久和会立花病院 川端 勇介 

 

はじめに

 筋、腱、靭帯の骨への付着部の多くは突起であり外力に弱い部分である。筋の強い収縮、あるいは靭帯の張力により骨の一部が剥がれることを剥離骨折と呼ぶが、筋、腱、靭帯の付着部であればどこにでも起こる可能性がある。小児の骨では、骨端線、二次骨端核は外力に最も脆弱な部分であり、靭帯などの損傷が起こる前に、剥離骨折が起こることが多く、しばしば骨端線の損傷を伴う。骨端線は、骨の長軸方向への成長を司るため、骨端線損傷の程度は予後との関連からも重要である。

 

症例 1 上腕骨大結節剥離骨折

69歳、男性  自転車で走行中転倒し、左肩を打撲した。救急車で当院外来へ搬送された。

         

1 肩関節正面像                    図2 肩関節軸位像

 

所 見:肩関節正面像(図1)において、肩関節の脱臼、上腕骨大結節の剥離骨折を認めた。

軸位像(図2)では、上腕骨は前方に脱臼していた。

診断名:左上腕骨脱臼骨折

 

《要点》

肩関節脱臼は、外傷による関節脱臼の第1位を占め、全脱臼の約50%を占めている。関節の上方は強固なアーチがあるので、脱臼は前、後、下におき得るが、ほとんどが前方烏口下脱臼である。上腕骨大結節剥離骨折は外傷により肩関節を脱臼したときに、大結節に付着する筋(棘上筋、棘下筋、小円筋)の牽引により発生する。

 

症例 2 足関節内果骨折

64歳、男性  登山中に足首を捻り、当院外来を受診。

        

図3 足関節正面像                図4 足関節側面像

 

所 見:足関節正面像(図3)、足関節側面像(図4)において、内果に横骨折を認めた。足関節内果、外果の骨折では、骨癒合の遷延や後に転位が増大してくることが多いため、観血的整復を要すると考えられた。

診断名:右足関節内果骨折(Lauge-Hansen分類  pronation abduction type stage T)

 

《要点》

足関節内果骨折は、足部が回内した状態で、足関節に強い外転力が働くことによって三角靭帯(起始:内果、停止:舟状骨、踵骨、距骨頸、距骨内側面)に牽引され発生する。

骨端線の解剖

小児骨端線の解剖(文献6より引用)

 

resting zone  :直接骨成長にはあずかっていない。この層まで骨端側より血管が認められ、この血行が骨端線の栄養を司ると考えられている。

proliferative zone:細胞が盛んに分裂、増殖する軟骨芽細胞の層で、骨幹端側にゆくに従っ

            てコラーゲン、ムコ多糖を主体とした基質形成が盛んである。

maturing zone proliferative zone2~5倍の大きさに肥大した細胞が存在する。細胞の

                代謝活性は盛んで、基質小胞にはカルシウムが認められる。

calcifying zone :骨端線で最も脆弱な部分である。

 

骨端線損傷

Salter-Harrisによる骨端線損傷の分類(文献6より引用)

 

骨端線損傷の分類として最もよく用いられているのはSalter-Harrisの分類であり、予後との関連からも重要である。一般に、TypeT、TypeUでは、calcifying zoneのみが損傷され、予後は良好であるが、TypeV、TypeWでは、resting zone , proliferative zoneが損傷され、正確な整復がなされなければ予後は不良である。TypeXでは、resting zone , proliferative zoneが全体的に損傷し、成長障害は必発である。

TypeT:骨折片を伴わない骨端線の離開。骨膜は保たれ、転位をみないことが多い。5

未満の成長板の厚い時期に好発する。resting zone , proliferative zoneの損傷はな

く、予後は良好である。

TypeU:最も頻度が高く、骨端線の離開が一側にはじまり対側に向かって進み、やがて骨

      幹端に骨折をきたす。骨端線が薄くなった10歳以上の小児に多い。resting zone , proliferative zoneの損傷はなく、予後は良好である。

TypeV:関節内骨折で、骨端からはじまった骨折が骨端線に達し、更に一側の骨端線を断

裂させる。骨端線の部分的癒合が起こってくる年長児に多い。resting zone , proliferative zoneは損傷され、予後は不良である。

TypeW:骨端、骨端線、骨幹端を一直線に走る骨折。resting zone , proliferative zoneは損傷

され、予後は不良である。

TypeX:きわめて稀で、強い圧迫力が働き骨端線の圧潰損傷をきたす。骨端線の離開、骨

端転位をきたすことはないので、X線診断はほぼ不可能である。resting zone , proliferative zoneは損傷され、骨端線早期閉鎖をきたし、予後は不良である。

 

症例3 上腕骨外顆骨折

・5歳、男児  1m程の高さより転落し、手をついて転倒した。左肘痛を訴え当院外来を受診。      

         図5 肘関節正面像              図6 肘関節側面像

 

 所 見:肘関節正面像(図5)、肘関節側面像(図6)において、上腕骨外側(矢印)に小骨片

を認めた。骨片は上腕骨小頭と一塊になって回転転位し、骨折面の接触が完全に

失われていたため、観血的整復を要すると考えられた。

 診断名:左上腕骨外顆骨折(Milch typeU、Wodsworth typeV、Salter-Harris typeU)

 

《要点》

 上腕骨外顆骨折は、肘伸展内反外力が加わった際に、橈側手根伸筋群(起始:上腕骨外顆、停止:第2、第3中手骨底)の牽引により発生する。上腕骨外顆骨折では、Milchの分類(骨折型による分類)とWodsworthの分類(骨片の転位量による分類)が重要である。

 

Milchの分類

 TypeT:骨折線は滑車に及ばない。肘関節の不安定性もない。

 TypeU:骨折線は滑車に及び、肘関節の不安定性が出現する。外反変形を呈し、橈骨、尺

骨も外方転位する。

Wodsworthの分類

       

               Wodsworthによる上腕骨外顆骨折の分類(文献3より引用)

TypeT:骨片に骨幹端の一部が付着し、骨端核の転位はない。

TypeU:骨片が外側に転位しており整復を要する。

TypeV:骨片が回旋転位して骨折部が全く接触していない。観血的整復を要する。

TypeW:通常の骨折ではなく野球選手に見られる橈骨頭が上腕骨小頭に繰り返し

impingeして発生する上腕骨小頭部のosteochondritic change

 

症例4 下前腸骨棘剥離骨折

・14歳、男児  サッカーをしていて、ボールを蹴ったときに急に左股関節部が痛くなった。

 

図7 患側正面像        図8 患側斜位像        図9 健側斜位像

所 見:正面像(図7)において、下前腸骨棘(矢印)に異常陰影を認めた。患側(図8)と健側(図9)の斜位方向撮影を追加し比較した結果、健側とは明らかに異なる骨片様陰影(矢印)を認めた。

診断名:下前腸骨棘剥離骨折(Salter-Harris typeT)

 

《要点》

下前腸骨棘は大腿直筋(起始:下前腸骨棘、停止:膝蓋骨)の付着部であり、運動時、大腿直筋の急激かつ過大な収縮力により下前腸骨棘剥離骨折が発生する。本骨折は、運動の盛んな10代の男子に好発し、ボールを蹴る動作や、疾走中に発生することが多い。運動時に発生する骨盤の剥離骨折には、他に、上前腸骨棘骨折(縫工筋付着部)、坐骨棘骨折(Hamstring筋付着部)などがある。

 

症例5 Juvenile Tillaux骨折

・14歳、男児  前転をしていて着地したときに足首を捻り、当院外来を受診。

      

図10 足関節正面像   図11 足関節側面像     図12 MPR冠状断像        図13 MPR状断像

 

 所 見:足関節正面像(図10)において、脛骨骨端部中央(矢印)に骨折線を認め、外側成

長板が離開している様にみえた。MPR冠状断像(図12)では、外側成長板の離開

(矢印)は明確であった。足関節側面像(図11)、MPR矢状断像(図13)において、

脛骨後果の骨折線(矢印)は骨端から骨幹端にまで及んでいた。 

診断名:脛骨遠位端関節内骨折(Juvenile Tillaux 骨折、Salter-Harris typeW)

     

《要点》

  脛骨遠位成長板の閉鎖は、12〜13歳頃骨端線の中央から始まって内側に及び、最後に

外側に至る。外側部が閉鎖する以前に足部に強い外旋力が働くと前脛腓靭帯の牽引によりJuvenile Tillaux 骨折が発生する。

 

参考文献

 

1) Salter,R.B.&Harris,W.R.:Injuries involving the Epiphyseal plate.J.Bone Joint Surg.,45-A:587~622,1963.

2) Milch HE:Fractures and fracture-dislocations of the humeral condyles.J Trauma 4:592~607,1964.

3) Wodsworth,T.G.:Injuries of the capitular (lateral humeral condylar) epiphysis.Clin.Orthop.,85:127~142,1972.

4) Kleiger,B.et al.:Fracture of the lateral portion of the distal tibial epiphysis.J.Bone Joint Surg.,46- A:25~32,1964.

5) Charles A.Rockwood,Jr.&David P.Green.:FRACTURES, LIPPINCOTT 

6) 片山 仁:骨・関節の画像診断, 秀潤社.

7) 森 於菟ほか:分担解剖学 第1, 金原出版株式会社.

8) 寺山 和雄:標準整形外科学, 医学書院

 

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