「脳解剖―脳葉と血管」

立花外科病院 矢野雅昭 

 

放射線技師にとって日常頻繁に遭遇する脳血管障害のCT所見を理解するためには、脳実質を栄養する脳動脈の解剖とその支配領域を知っておく必要がある。

大脳皮質動脈、脳底部穿通枝動脈、脳幹・小脳の血管支配について文献を参考に述べる。

 動脈間には相互に補完し合う関係があって、常に支配域が一定なわけではないが、それらの支配域の概略を把握しておくことは、脳血管障害の臨床上きわめて重要である。これらの解剖学的情報は、脳梗塞だけでなく、出血巣の解釈、もやもや病、動静脈奇形、さらに脳腫瘍の診断の際にも役に立つ。

特にCT画像読影の点からも、CT解剖と血管支配域の知識は必要である           

 

[脳の血管支配  皮質枝動脈]

脳実質を栄養する脳血管には左右一対の内頸動脈internal carotid artery:ICAと椎骨動脈vertebral artery:VAがある。このうち大脳には内頸動脈から一対の前大脳動脈 anterior cerebral artery:ACA 、中大脳動脈 middle cerebral artery:MCA 、さらに左右の椎骨動脈が合流して形成される脳底動脈 basilar artery:BA から分岐する一対の後大脳動脈 posterior cerebral artery:PCA が灌流する。これらの各主幹動脈は脳底部で両側前大脳動脈間の前交通動脈 anterior communicating artery:AcomA 、内頸動脈末端部より分岐する後交通動脈 posterior communicating artery:PcomA の存在により吻合しており、Willis輪 (circle of Willis )と呼ばれる。Willis輪の各成分の発達には個体差があり、特に前・後交通動脈、後大脳動脈近位部や、前大脳動脈水平部 A1 portion は低形成の場合もある。これらの各主幹動脈近位部から、大脳深部灰白質領域に分布する脳底穿通動脈と半球表面に向かう皮質動脈とに分けられる。これらの主幹動脈や皮質枝は脳血管造影上よく観察される。前大脳動脈の各分枝は、一側大脳半球のうち前頭葉、頭頂葉の内側域を灌流し、中大脳動脈 Sylvius裂を中心に大脳半球外側域を広汎に灌流する。一方、後大脳動脈は脳幹を回りこんで後方に向かいながら、側頭葉内下面および後頭葉内側域を灌流する。側頭葉内側域では海馬の大部分も後大脳動脈から栄養される。

[前・中・後大脳動脈皮質枝間の脳軟髄膜血管吻合 LMA ]

各大脳動脈皮質枝は末梢で互いに吻合しており、脳軟髄膜血管吻合(leptomeningeal anastomosis:LMA)といわれる。通常は機能していないが、ある血管の中枢側に閉塞機転が生じると、逆行性に閉塞血管の末梢側分枝を栄養する側副血行路として機能する。

 

[大脳穿通枝動脈とその支配域]

CT上、基底核や内包、視床領域には小梗塞や脳出血が多発する。それらがどの血管の支配領域にあるかを判断するのはなかなか難しいが、正常の血管支配域を知っておくことは重要である。

大脳基底核

1)                        線条体動脈群

@    内側線条体動脈( medial striate arteries:MSA )前大脳動脈近位部 A1 portion から生ずるMSAは

前穿通野および視床下部の視交叉上部から脳実質に穿通し、視床下部前部、前交連の内側1/3、時に尾状核、被殻、淡蒼球の前下端に分布する。Recurrent artery of Heubner RAH は通常、前大脳動脈の前交通動脈分岐部から起始し、特徴的な recurrent courseをとって前穿通野を穿通して、尾状核と被殻の前下部および両者間の内包前脚の一部、淡蒼球の lateral segmentの一部を栄養する。

A    外側線条体動脈(lateral striate arteries:LSA )中大脳動脈のsphenoidal portion M1より数本のLSA

 (シャルコーの脳卒中動脈)が分岐し、前穿通野より脳内に穿通して、尾状核、被殻、淡蒼球のlateral segmentの一部、無名質、前交連外側部などを栄養する。また、本管は末梢で側脳室体部の上外方の白質に分布する脳表からの髄質動脈との境界領域をなす。MSA、LSAはともに、前穿通野を頂点とする類円錐形状に基底核域に広がって分布する。

2)前脈絡動脈(anterior choroidal artery:AChA)

前脈絡動脈は、後交通動脈の末梢かつ主分岐部の近位で、内頸動脈後面より起始して後内方に向かい、視索の下面に至って、おおむねそれに沿って側頭葉鉤部の内上縁を走行する。そして外側膝状体付近で外方に向かい、脈絡裂を通って側脳室下角に入り、最終的には脈絡叢内に分布する。その走行中に種々の分枝を出し、以下の領域を栄養する。

@    側頭葉内側面:側頭葉鉤部、扁桃核後内側部

A    視覚路:視索、外側膝状体前外側半、視放射起始

B    基底核領域:内包後脚、淡蒼球内側部、尾状核尾

C    間脳:視床下核、視床外側腹側核の表層部

D    中脳:大脳脚上部の一部(中1/3)、中脳黒質の一部

3)                        視床動脈群

視床動脈群は後交通動脈、後大脳動脈から起始する一連の穿通動脈群である。

@    視床灰白隆起動脈(thalamotuberal arteries:TTA)後交通動脈から起始して乳頭体の前方で灰白隆起から穿通して視床下部後部、視床前極部を栄養する。

A    視床穿通動脈(thalamoperforate arteries:TPA)後交通動脈との吻合前の後大脳動脈の最近位部P1から起始して脚間窩の後穿通野から穿通し、赤核の前上端、視床下部後端を経て、第三脳室壁に沿って視床内側域に至り、視床傍正中部から外上方に広がる。視床外側腹側核、後腹側核、内側核を栄養し、中脳の傍正中部にも分布する。

B    視床膝状体動脈(thalamogeniculate arteries:TGA)後大脳動脈の ambient segmentから起始して、内側・外側膝状体間より穿通し、後端部を除く視床外側域を栄養する。視床外側腹側核、後腹側核、中心内側核の外側部、視床枕の前外側部を栄養する。

C    内側後脈絡動脈(medial posterior choroidal artery:MPChA)

D    外側後脈絡動脈(lateral posterior choroidal artery:LPChA)

以上、穿通動脈の支配域を簡単に説明した。大脳深部の灰白質領域のうち前方の基底核領域は前・中大脳動脈の線状体動脈群によって、後方の視床領域は posterior circurationからの一連の視床動脈群によって支配を受け、この両支配域間に前脈絡動脈域が弓状に入り込む構図になってこれらの穿通動脈支配域によって大脳深部灰白質領域はほぼ埋め尽くされる。

 

[脳幹・小脳の血管支配]

 鎖骨下動脈から分岐した両側の椎骨動脈は延髄の前外側で大後頭孔を通って頭蓋内に入り、橋延髄移行部で両者が合して脳底動脈(basilar artery:BA)となるが、その合流直前の椎骨動脈より後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)が分岐して延髄の外側部および小脳下面を栄養する。また、脳底動脈近位部からは、前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery:AICA)が起始して橋、中小脳脚、小脳前面の一部を灌流し、脳底動脈遠位部からは上小脳動脈(superior cerebellar artery:SCA)が起始して、橋、小脳上面を灌流する。後下小脳動脈および上小脳動脈の分枝は、虫部枝と半球枝とに大別される。これらの小脳動脈の末梢枝間にも、小脳の脳表で大脳の動脈に見られるのと同様な脳軟髄膜血管吻合LMAがあり、側副血行路として機能しうる。以上、3本の小脳動脈以外に脳底動脈から多数の小動脈が分岐して、脳幹を直接栄養する。これらの脳幹の動脈は傍正中動脈、短回旋動脈、長回旋動脈の3群に大別される。

 

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