「頭部CTの実際と読影」

立花外科病院 矢野雅昭 

 

脳血管障害(cerebrovascular disease)とは、脳を灌流する血管に病変の起こったものの総称である。一般的には血管の病変が原因となって脳に何らかの障害をきたすものをいう。脳の病理的変化としては、虚血性の変化と頭蓋内出血とがその大多数を占める。虚血性変化の原因となる血管病変としては、頭蓋内の血管の病変のみならず、大動脈弓、頸部の血管(頸動脈、椎骨動脈など)の病変も含まれる。頭蓋内出血の原因としては、動脈瘤、動静脈奇形などのような頭蓋内の原発性疾患の他に、高血圧、出血性素因(血友病、乳児のビタミンK欠乏症ほか)などの全身疾患に起因する出血も含まれる。 今回は、高血圧性脳内出血HIHと脳動脈瘤aneurysm破裂でのくも膜下出血SAHについてのみ文献を参考に述べる。

 高血圧性脳内出血(HIH hypertensive intracerebral hemorrhage)は、血腫の大きさにもよるが頭蓋内圧亢進をきたし、さらに、脳室内、くも膜下腔にも出血する重篤な疾患である。死亡率は75%に達するといわれる。また一方、高血圧症の早期治療が普及したため、近年その数は有意に減少している。

「病理」脳血管とくに中大脳動脈穿通枝に類線維素変性(fibrinoid degeneration)が起こり、そのため血管壊死、または微小動脈瘤をきたして出血するものと理解されている。繰り返しCT検査を行うと、血腫増大を示す例が少なくないことから、出血は一過性でなく、連続的ないし再出血を示す例のあることが示唆される。急速悪化例では、出血は少なくとも1時間は続く。

脳出血CT所見の経時的変化

超急性期:血腫の増大を認めることがある。

急性期:発症4〜7日頃より血腫辺縁より吸収値の低下が始まる。

亜急性期:約1ヶ月の経過で血腫の中心まで吸収値の低下が進む。(等吸収域→低吸収域)

慢性期:低吸収域の範囲は次第に縮小。病巣部位が消失したり、スリット状の低吸収域となることもある。

脳出血の経時的変化

 血腫が高吸収域になる機序は、血管内を流れる血液のCT値は、脳実質のそれに接近している。血液が血管外に出て高吸収域になるのは、血漿成分が吸収されて凝血となり、ヘマトクリット値が上昇する結果である。血腫のCT値は普通60〜80であるが、上図からもわかるように94を上限としてそれ以上にはならない。また、ヘマトクリット値が45%のとき示すCT値は、脳のCT値と差が小さい。出血は、脳の実質を穿通する小動脈にできた小動脈瘤の破綻で出血が始まるとされている。このとき、1個の小動脈瘤の破綻では、直径0,6〜1cmの大きさの血腫で留まるという。血腫が大きくなる過程には、複数の小動脈瘤の破綻や、組織破壊や圧迫などによる二次的な毛細血管・小動脈からの出血が加わっていると考えられている。

「出血部位」大脳(76%),橋(12%)および小脳(12%)などにみられるが、大脳出血が断然多い。大脳出血には被殻出血、視床出血、および脳葉出血が区別される。また、出血が被殻から視床にかけ広汎な領域に及ぶ場合がある。いずれにせよ、大脳基底核を養うレンズ核線状体動脈の分布領域に多い。

「好発年齢」高血圧症および動脈硬化が起こる年齢、すなわち50〜60歳台が約半数を占める。そして、高血圧性脳内出血は、単に高血圧のみで出血をきたすことが少なく、高血圧に動脈硬化が加わったときに出血の危険性が非常に高くなる。

「臨床症状の特徴」         

被殻出血putaminal hemorrhage出血源はレンズ核線条体動脈外側枝LSAであり、血腫が大きければ内包を障害するので、血腫と反対側の顔、舌を含む片麻痺と感覚障害がみられる。血腫が大きければ意識障害、病巣側への共同偏視、同名反盲、失語、失行、失認などがみられる。

   

[CT画像]:右被殻に新鮮な大出血がみられる。血腫は内包膝と尾状核頭部に波及。Wbに分類される。

視床出血thalamic hemorrhage出血源は後視床穿通動脈TPAおよび視床膝状体動脈TGAであり、血腫と反対側の感覚障害、軽度の片麻痺がみられることが多い。そのほか、眼球の下内方への凝視(鼻尖凝視)、縮瞳、対光反射消失ないし低下、病巣側への共同偏視、Parinaudパリノー微候(垂直方向の注視麻痺)などもみられることがある。血腫が大きいと、発症時より意識障害を伴う。

  

[CT画像]:左視床内側に血腫が認められ、正中の第V脳室へ穿破している。Tbに分類される。  

*「脳出血の脳室内への穿破ルート被殻出血から側脳室に穿破するルートのうちもっとも多いのは、前方に進展して尾状核頭部の前方の前頭葉白質を貫いて前角に穿破するルートである。また、上方に進展して側脳室の体部に穿破することも多い。この他、後方に進展し側脳室三角部へ穿破する場合や、時に内方へ進展し尾状核頭部と視床の間から穿破することもある。視床出血では直接内側の側脳室または第3脳室へ破れることが多いが、後外方に拡がり側脳室に及ぶこともある。小脳出血では、内前方に進展して第4脳室に至り、橋出血はしばしば被蓋から第4脳室に穿破する。

  

 

脳葉出血lobar hemorrhage (皮質下出血):症状は限局性であり、意識障害はあっても軽度のことが多い。出血部位に一致した大脳巣症状を呈する。頭頂葉、側頭葉に多く、前頭葉、後頭葉にも起きる。 

[CT画像左]:左側頭葉白質に新鮮な血腫がみられる。周囲に脳浮腫を伴っている。 

橋出血pontine hemorrhage:最も重篤な出血である。出血源は正中穿通動脈である。多くは、発症後急速に意識障害が進行し、短時間のうちに昏睡状態に陥り、四肢麻痺、著名な両側の縮瞳(pinpoint pupils)、両側の下方への沈下運動(ocular bobbing)、culocephalic responseの消失などを示す重症例である。

[CT画像中]:橋底部背側から被蓋にかけて血腫を認める。

小脳出血cerebellar hemorrhage出血源は上小脳動脈SCAの分枝であるといわれている。強い頭痛、嘔気、嘔吐、回転性のめまい、起立および歩行不能で発症し、四肢の麻痺を認めないのを特徴とする。病側の失調、病巣と反体側への共同偏視のほか、外転神経麻痺、末梢性顔面神経麻痺などをみることもある。意識が比較的よく保たれている軽症型と、発症後意識障害が急速に進行して短時間のうちに昏睡に陥る激症型とがある。

[CT画像右]:第四脳室後の小脳虫部に大きな血腫が認められる。

「画像診断CT」発作初期には単純CTで十分である。血腫存在部位に一致した高吸収域としばしば合併する脳室内出血、周囲脳浮腫やテントヘルニアの発生も診断でき、脳出血には必須の検査法である。血管外に出た血液は、約3時間ほどすると血液凝固機転により著明な高吸収域を示してくる。しかし、時間の経過とともに等吸収から低吸収域と変わってくる。すなわち、@発作直後(少なくとも3時間以内)では、限局性の高吸収域が、円滑な境界をもってみられる。A2週間もすると高吸収域は小さくなり、境界も不鮮明になり小斑点状になってくる。大体発症後3週間で等吸収域となる。B1ヶ月ほどたつと逆に低吸収域に変わり、萎縮により同側の脳室系の拡大を伴ってくる。なお、脳室内穿破の予後はそれほど悪くなく、しかも脳内出血に合併する率も決して低いものではない。脳内血腫の融解過程で、増強CTにみられるリング状増強効果(ring enhancement)の経時的変化は特徴的である。すなわち、発作直後の増強CTではみられなかったものが、1週から6週にかけ血腫部を取り巻いて出現し、2〜6ヶ月で消失する。リングの厚さは3〜6mmで、血腫周辺を取り囲む肉芽組織の血管増生によるものと考えられている。この新生血管が消失し、血腫周囲にグリオーシスが起こるとリング状増強領域の出現、消失の時期は、血腫の大きさによってかなりの幅がある。一般に、3〜5mm以上の血腫であればほとんど発見されるし、後頭蓋窩血腫とくに小脳出血や端出血も正確に診断できる。

 

 

 

 

 

 

 

くも膜下出血(SAH subarachnoid hemorrhage)は、突発する激しい頭痛とそれに続く項部硬直などの髄膜刺激症状を主徴とする。原因として最も多いのは脳動脈瘤破裂で、これが半数を占め、動静脈奇形は6%あり、その他に高血圧性動脈硬化性出血が15%、原因不明が20数%ある。

「くも膜下出血診断のポイント」

@    激しい頭痛を主徴とする。 A項部硬直、Kernig徴候を認める。 B髄液は血性である。

C局所神経症状を欠くことが多い。 D意識障害は一過性か、欠如することが多い。

E硝子体下(網膜前)出血を認めることがある。

「症状」:頭痛は必発の症状で典型的な例では、突然これまで経験したことのない激しい頭痛で発症し、悪心、嘔吐を伴うことが多い。頭痛は“頭が割れるように”強く、後頭部から項部に放散することが多い。しかし軽症例では頭痛が比較的軽度のこともあり、時に後頭痛、項部痛あるいは坐骨神経痛様の訴えのみのこともある。意識障害は、約半数の症例で発症時に激しい頭痛にひきつづいて認められるが、一過性で意識が回復した後には患者は発症時のことを明瞭に覚えていることが多い。神経学的所見では、項部硬直、Kernig徴候などの髄膜刺激症状が特徴的である。

「診断 CT」:CTスキャンは、くも膜下出血の診断にはまず緊急に施行すべき検査である。動脈瘤破裂による時は、脳底部の脳槽、シルヴィウス裂あるいは脳溝のくも膜下腔に貯留した血液による高吸収域を認める。脳室内に穿破してりあるいは逆流した血液を認めることが多い。脳内血腫を伴うこともある。この場合、前頭葉内の血腫は前交通動脈AcomAの動脈瘤破裂によることが多い。重症例ではくも膜下腔の高吸収はび慢性に分布することが多いが、時に比較的限定した分布を示し出血源を推定できることがある。中大脳動脈MCAの動脈瘤破裂で、血腫がシルヴィウス裂内に限局して、時に高血圧性被殻出血と紛らわしいことがある。動静脈奇形AVMからの出血によるくも膜下出血では、くも膜下腔の高吸収に加えて、造影剤による増強後、動静脈奇形に特徴的なCT像がみられる。造影増強により、動脈瘤が発見される場合もあるので、必ず造影増強をみる必要がある。なお、軽いくも膜下出血ではCTスキャン上異常所見を認めないこともあるので、CTスキャンが正常であってもくも膜下出血を完全に否定することにはならない。このような場合、髄液検査が重要である。

「脳血管撮影」:脳血管撮影により、脳動脈瘤、動静脈奇形などの原因疾患の診断と、脳血管攣縮など予後に関係ある病態を明らかにすることができる。反復して脳血管撮影を施行しても出血源が明らかにされない症例が10〜20%あり、このような例の予後は一般に良好といわれている。

「続発症と予後」:動脈瘤破裂によるくも膜下出血の保存的治療による予後は極めて不良である。初回発作後24時間以内に約15%が死亡するといわれている。再出血も多く、その率は6週以内に30%にも達する。脳脊髄液の循環障害による急性水頭症、脳血管攣縮も予後を悪化させる。

「脳動脈瘤の好発部位」:脳動脈瘤は、ウイルス動脈輪の前半部、特に内頚動脈、後交通動脈分岐部と前交通動脈に好発し、中大脳動脈がこれに次ぐ、椎骨動脈系は比較的少ない。脳動脈瘤が破裂した場合には前項に述べたくも膜下出血の症状が出現する。また動脈瘤の発生部位によりそれぞれ比較的多くみられる症状がある。

「破裂動脈瘤の血腫分布」:脳動脈瘤が破裂した場合、出血はくも膜下腔のみならず脳実質内、脳室内、硬膜下腔などに広がる。出血部位の頻度は、くも膜下腔が最も多く、脳内、脳室内出血がそれに続いている。脳動脈瘤の破裂の際の頭蓋内での出血の拡がりは、

@    1型:純くも膜下出血型・・多量のくも膜下出血を特徴とし、脳実質内出血を伴わない。

A    2型:脳内出血、脳室内穿破型・・出血が脳実質を貫通し、さらに脳室内へ穿破するもの。

B    3型:脳溝内血腫、脳壊死型・・くも膜下腔内に限局した血腫を形成し、隣接脳実質の壊死を来たして脳室へ穿破するもの。

この中では1型が最も多く約半数を占め、次いで2型が多く、3型は少ない。

    「内頚動脈系」:@内頚動脈海綿静脈洞部動脈瘤(床突起下動脈瘤):海綿静脈洞部の動脈瘤破裂によりくも膜下出血を起こすことは稀である。この部位の動脈瘤は大きく、CTスキャンで診断可能のことが多い。

A    内頚動脈・後交通動脈分岐部動脈瘤(床突起上動脈瘤):内頚動脈から後交通動脈が分岐する部位は動脈瘤の好発部位の1つである。この部位に隣接して動眼動脈が走っているため、動脈瘤が増大している時、あるいは破裂した時、最も多くみられるのが散瞳、眼瞼下垂などの動眼神経麻痺の症状で、高度の場合は動眼運動も障害される。視索を圧迫して半盲をみることがある。

 

  

内頚動脈・後交通動脈分岐部動脈瘤 IC-PC aneurysm

    ・・CT上血腫は脳底槽、シルヴィウス裂に広範囲に広がり大量の血液の貯留を認める。右側が少し強い。側脳室は対称性にやや拡大している。右IC-PC動脈瘤破裂を思わせる。

 

B    中大脳動脈動脈瘤:中大脳動脈の分岐部に好発し、この部位の動脈瘤の破裂では脳内血腫や中大脳動脈領域の虚血を伴うことが比較的多い。この場合、くも膜下出血の一般症状に加えて反対側の片麻痺がみられる。この際、麻痺の程度は下肢より上肢に多い。他の部位の動脈瘤破裂に比べ麻痺を認めることも多い。

  

中大脳動脈三叉部動脈瘤 MCA aneurysm

    ・・血腫が左シルヴィウス裂に大量に貯留し、脳底槽各槽にも波及している。左MCA動脈瘤破裂を思わせる。

なお、内頚動脈・後交通動脈分岐部動脈瘤 IC-PC aneurysmは、Fisher分類のgroup3に、中大脳動脈三叉部動脈瘤 MCA aneurysmは、group4に分類される。

C前交通動脈動脈瘤:通常破裂前は無症状であるが、視神経、視交叉を圧迫して視力、視野障害と眼底検査で視神経萎縮を認めることがある。破裂時の特徴は、くも膜下出血発症時に一側あるいは両側の視力障害を呈することがある点で、完全な失明に至ることもある。しかし、これは一過性のことが多い。麻痺を伴うときには上肢よりも下肢に高度である。

    「椎骨動脈系」:脳底動脈BAの遠位部、すなわち、上小脳動脈SCA分岐部と脳底動脈先端部の動脈瘤は、中脳の脚間槽にあって、その解剖学的位置関係から動眼神経麻痺、垂直性注視麻痺、内側縦束症候群、眼振などがみられることがある。そのほか中脳、橋上部レベルでの障害の部位とその組み合わせにより、片麻痺、四肢麻痺、偽性球麻痺、Weber症候群、Benedikt症候群などの起こることが知られている。後大脳動脈領域の虚血から同名性半盲、皮質盲を呈することがある。脳底動脈の近位部、すなわち脳底動脈の起始部、前下小脳動脈分岐部などに発生する動脈瘤の症状は、橋あるいは延髄上部の圧迫、虚血などによる症状で、部位により核上性または核下性の各種脳神経症状と錐体路症状が種々の組み合わせでみられる。小脳橋角部にあれば典型的な小脳橋角症候群を呈する。 

 

「脳血管攣縮 cerebral vasospasm」:脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血において、再出血と共に生命あるいは機能の予後と密接に関連する重要な因子の1つに脳血管攣縮がある。診断は、脳血管撮影上、動脈の異常な狭小化を証明することによる。破裂動脈瘤の存在する部位付近に最も強いが、その他の血管を含めて広範に発生することも多い。発生数日後から2〜3週の間に、約40〜50%の症例に出現するが、特に脳底部脳槽などのくも膜下腔に凝血量の多い症例ほど高率に発生することが知られている。臨床症状と脳血管撮影上の攣縮の程度は必ずしも並行しないが、攣縮によりその動脈の灌流領域は時に広範囲の梗塞を呈し、脳浮腫、頭蓋内圧亢進を助長させる。臨床的には、意識が低下し、片麻痺などの局所症状が出現する。発生機構は不明。

 

HOME