脳解剖と脳葉の分割

立花外科病院 伊藤 薫 

 

 脳や脊髄疾患の画像診断に際しては、まず初めに正確な局在診断を行い、次に質的診断が試みられることになるが、この局在診断に関しては読影の際に正常解剖を十分に理解しておくことが極めて重要であると考え、画像を参考にしながら脳解剖について説明する。

 

T.大脳皮質解剖 (脳回と脳溝)

大脳半球表面は、多数の脳溝(sulcus)と脳回(gyrus)とで構成されている。脳溝は、不規則な形をした陥凹部で深いものは裂と呼ばれ、脳回は、脳溝によって境される突出部である。通常これらの脳溝は、一定の形態学的パターンは示さないが、主要な脳溝、裂は、固有の名前で呼ばれ、前頭葉,頭頂葉、側頭葉、後頭葉および各脳回の境界を示す重要な指標となる。

 

1)    脳の外観

脳の外観を簡素化し模式的に示したのが図―1である。脳の外側面では中心溝が前頭葉と頭頂葉を外側溝が側頭葉と前頭葉および頭頂葉の前半分を分けているが後半部では各脳葉を分ける脳溝は存在しない。

脳の内側面では頭頂後頭溝が唯一の葉間溝で頭頂葉と後頭葉を分けている。

なお、中心傍小葉が前頭葉と頭頂葉にまたがって存在する。(図―2)

2)    島と外側溝の解剖

外側溝は側頭葉と前頭葉および頭頂葉の前半を分け大脳外側面の前下端において3本の枝に分かれる。葉間溝として側頭葉を他から分けているのが後枝であり、ほかに前枝と上行枝がある。前頭葉の下前頭回はこの小枝により、眼窩部、三角部、弁蓋部に分けられる。

 

 U.大脳の動脈支配領域

大脳に分布する血管群のうち皮質動脈である前、中、後大脳動脈の支配領域に関して述べるが皮質枝の支配領域は必ずしも一定ではなく相接する血管群は互いに相補的な関係にある。

  @ 前大脳動脈:主として半球内側面に分布し前頭葉内側面、底面の全域,頭頂葉楔前部の大部分をまた外側面は上前頭回および中心前回、中心後回、上頭頂小葉の一部を支配している。

  A 中大脳動脈:主として半球外側面に分布し前頭葉底面の外側部、中、下前頭回,中心前回の大部分、中心後回の一部、上頭頂小葉の一部を除く頭頂葉外側面,側頭葉外側面のほぼ全域、側頭葉の前下面、後頭葉の前外側面を支配している。

  B 後大脳動脈:後頭葉外側面、内側面のほぼ全域、楔前部の後部、海馬傍回、外側および内側後頭側頭回,下側頭回の一部を支配している。

なお、各動脈群の境界領域は一定していない。

V.髄液腔(脳室と脳槽)

側脳室、第三脳室、第四脳室の脈絡叢で産生された脳脊髄液は脳表を灌流して最終的に傍矢状部にあるクモ膜絨毛より吸収される。髄液腔とは脳脊髄液で満たされた空隙の総称であり脳内の髄液腔を脳室、脳表に接して存在する髄液腔をクモ膜下腔と呼んでいる。またクモ膜下腔のうち大きくて一定した形態を示すものを脳槽と呼んでいる。

  @ 脳室

天幕上の脳室は側方からみるとの字の形を示す一対の側脳室と第三脳室とで構成されている。側脳室は前角、体部、三角部、後角、下角よりなり室間孔(モンロー孔)で第三脳室と連絡している。第三脳室から細い中脳水道を通って第四脳室に入り正中にある正中孔(Magendie孔)および外側孔(Luschka孔)よりクモ膜下腔に連絡している。

  A 脳槽(主要な脳槽の位置関係について述べる。)

1. 脳梁周囲槽:帯状回と脳梁との間の脳槽で上方は半球縦裂、前方は終板槽、後方は四丘体槽と連絡している。

2. シルビウス裂:島葉と前頭葉、頭頂葉、側頭葉の弁蓋部との間の脳槽で上行枝、水平枝、後枝に区別される。また内側は大脳谷槽、外後方はinteropercular spaceを介して脳表のクモ膜下腔と連絡する。

3. 終板槽:第三脳室の前方にある脳槽で上方は脳梁周囲槽、下方は鞍上槽と連絡している。

4. 鞍上槽:前方を直回後端、上方を第三脳室底、下方をトルコ鞍に囲まれた脳槽で多数の神経、血管が走行している。また後方は脚間槽と前上方は終板槽と側方は大脳谷槽、下方は橋槽と連絡している。

5.  脚間槽:大脳脚の間の脳槽で上方は第三脳室底、後外側は大脳脚に囲まれ下方は橋槽と外側大脳脚槽と前方は鞍上槽と連絡している。

6.  迂回層:前方は大脳脚槽、後方は四丘体槽と連絡する脳槽で後大脳動脈、上小脳動脈が走行している。

7.  中間帆槽:上方を脳梁、側方を視床、下方を第三脳室上壁で囲まれた脳槽で頂点を前方に向けた三角形の形を呈し前方は室間孔に達し、後方は四丘体槽と連絡している。

 

一般的解剖では、脳を断面像から見たとき前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉をどのように区別するのか、という基本事項を解説のテーマとした。言わば、病巣の部位表現に必要な脳葉の分割法である。CTの出現で脳の断面を見ることができるようになり脳の断面の解剖を詳細に記載するうえで脳葉の分割が大切であると言える。そこでCT画像のaxial像(OMLに平行な横断像)より葉間溝の同定法ついて考えてみた。まずは、前頭葉と頭頂葉を分ける中心溝は最も上部の画像で同定するのがよい。典型的には中心前溝、中心溝、中心後溝が平行する三本の溝として認められ、中心溝が最も深い切れ込みをつくる。OMLがだいたい0度のとき中心溝はほぼ中央に位置し脳溝が見えない場合の指標となる。このほかの鑑別点として、中心前溝、中心後溝はそれぞれ上前頭溝、頭頂間溝と連続性を持つ。また大脳内側面の帯状溝縁部よりやや前方に存在する。

つぎに脳槽でもある外側溝(Sylvius裂)は第三脳室のレベルで明瞭に観察できるが上方に辿って行くにしたいがい後枝は側脳室体上部のレベルに達したときは同定するのが困難になっていく。

大脳内側面後部において頭頂後頭溝は側脳室体上部か、その上のレベルで認めやすく、逆ハの字型を呈する脳溝により頭頂葉と後頭葉とが分けられる。

 また、頭頂葉と側頭葉を分けているのは外側溝後枝であり、Monro孔のレベルでは頭頂葉はなく、前頭葉と側頭葉とを分けている。外側溝後枝は側脳室体部上端のレベルに終わり、その上部では側頭葉は見えなくなる。後頭葉と頭頂葉、側頭葉の境界は明確にしにくいが、大脳内側面では頭頂後頭溝が後頭葉と頭頂葉を分け、直静脈洞が後頭葉と側頭葉を分けている。大脳外側面では、後頭葉と側頭葉の境界は内側面の境界よりやや後方と考えておくべきである。

 

なお、大脳基底核や末梢の血管の解剖については今回は控えさせてもらう。

 

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