胸部シルエットサインについて
愛媛県立新居浜病院 西原 正一郎
水濃度と水濃度の陰影が相接して存在すると、その境界のコントラストが失われて不鮮明になることをシルエットサインという。
正常X線解剖では心臓・胸部大動脈・横隔膜の辺縁は鮮明に描出されるが、何らかの病態(1)侵出液、血液、細胞等X線的に水濃度を示す物質で置換されるか、(2)肺胞が虚脱して肺胞内の空気が失われるか、(3)胸水や従隔腫瘍等があり、肺内ガスが心臓、胸部大動脈、横隔膜に接することができないと、それらの臓器の鮮明な辺縁がコントラストを失って不鮮明となる。
被写体Aは、箱Aの隅にX線で水濃度を示すパラフィンを三角形に固めたものを心臓と仮定し、この箱を正面から撮影すると、(A’)パラフィンの斜辺は、箱Aの空気でコントラストされ、その辺縁は鮮明に描出される。
被写体Bは、箱Bの中に胸水と仮定した鉱油を入れて、正面から撮影すると、(B’)鉱油の上面も空気によりコントラストされ、境界が鮮明に描出される。
被写体Cはパラフィンの入った箱Aの中に胸水と仮定する鉱油を入れて撮影すると、(C’)パラフィンと鉱油の境界は不鮮明となり、シルエットサイン陽性という。
被写体Dは箱Aと箱Bを重ねあわせたもので、これを正面から撮影すると、箱Aのパラフィンの斜面も、箱Bの鉱油の上面も、箱Aのパラフィンに接する空気にコントラストされて両者の辺縁は不鮮明にならず、シルエットサイン陰性という。
下行大動脈の辺縁が心陰影に重なっても、境界が鮮明に描出されるのと同じである。
シルエットサインを形成する解剖学的位置関係
解剖学的部位
病巣部位 |
心臓の辺縁 右 左 |
上行大 動脈 |
大動脈弓 |
下行大 動脈 |
横隔膜 右 左 |
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右上葉 |
全区(S1~S3) |
〇 |
〇 |
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前区(S3) |
〇 |
〇 |
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右中葉 |
全区(S4、S5) |
〇 |
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内側区(S5) |
〇 |
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右下葉 |
全区(S6~S10) |
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〇 |
上区(S5)を除く区域 |
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〇 |
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左上葉 |
全区(S1~S5) |
〇 |
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〇 |
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肺尖後区(S1+2) |
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〇 |
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前区(S3) |
〇 |
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上区(S4) |
〇 |
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下区(S5) |
〇 |
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左下葉 |
全区(S6~S10) |
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〇 |
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〇 |
上区(S6) |
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〇 |
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後肺底区(S10) |
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〇 |
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〇 |
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S6を除く肺底区 |
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〇 |
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縦隔 |
前縦隔 |
〇 |
右〇 |
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後縦隔 |
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左〇 |
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胸水 |
右胸水 |
〇 |
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〇 |
左胸水 |
〇 |
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〇 |
〇 |
水濃度の心臓・胸部大動脈・横隔膜・肺血管等と、同様な水濃度を示す病変が相接すると、接した部分の境界辺縁が不鮮明となり、このことをシルエットサイン陽性という。
この原理を応用し、心臓・大血管・横隔膜に接する肺区域を覚えておくと、どの部分が不鮮明になったかによって、その病変の解剖学的位置関係(局在)を知ることができる。