胸部中央陰影について

岩崎病院 石川幸一 

 

胸部中央陰影の読影には、縦隔洞陰影を構成するすべての臓器の位置関係と

肺縦隔境界線の関係を知ることが重要である。

中央陰影の内部は胸部単純X線撮影では、コントラストがないのでわからないが、

肺と接する辺縁のみ評価可能。

 

縦隔の区分(Felsonの分類)

1) 前縦隔−胸骨の後ろから気管透亮像まで

            (心臓 胸腺 心嚢 上行大動脈 上大静脈)

2) 中縦隔―心臓後縁から椎骨前縁まで

      (気管 食道)

3) 後縦隔―椎骨前縁から後方

      (下行大動脈 交換神経幹 奇静脈 半奇静脈)

a)心臓 大血管系

    右側を 右第T 第U弓、左側を 左第T U V W弓と呼ぶ。

 右第T弓―上大静脈(高齢者は上行大動脈の右縁)

 右第U弓−右心房の辺縁

 左第T弓−大動脈弓

 左第U弓―肺動脈幹 

 左第V弓―左心耳

 左第W弓−左心室

b)気管透亮像−椎骨に重なって正中線上に認められる。

 

肺縦隔境界線

 これらの境界線は肺と縦隔の接する種々のくぼみや突出部が単純X線写真上

線状影、索状影、辺縁影として観察される。

 

1、 前接合線

      胸骨後部の両側肺が接する部位で胸骨柄直下のレベルから始まり、通常

   はほぼ正中からやや左下方に走行し4〜5cm連続した線状影として見

   られる。この線の異常な拡大、変形は前縦隔の異常(胸腺腫など)を示唆

   する所見だが、むしろ左右に不対称な突出像が異常を示すことの方が多い

2、後接合線

   胸椎の直前で両側肺後部が接することによって作られる線状影(通常気管

   と重なるので気管の透亮像のほぼ中央に走行する)で、胸郭入り口近傍の 

   高さから始まり、奇静脈弓及び大動脈弓部の上部までの間。

   後部縦隔に発生する神経原性腫瘍、リンパ節腫大の場合は偏位、変形

3、右気管傍線

    鎖骨の高さから右上葉気管支上縁の高さまで(奇静脈が上大静脈へ流入す

    る部位より上方)の気管右壁が線状影として描出される。        

    右肺がこの部分で気管右壁に接するためである。

    この白い線条が消失して認められない時に、気管傍リンパ節腫大や縦隔

    腫瘍、胸膜病変、肺腫瘍などを疑う。

4、右食道傍線               

   奇静脈食道線 

    気管分岐部から左下方にやや斜めに走る線で、上端は奇静脈弓に達する。

    奇静脈食道陥凹部(気管分岐部より下方では右上葉の一部が、心臓後方と

    椎体前方を椎体を乗り越えるように入り込んでいる)の左端は奇静脈と食

    道右壁または後方の縦隔に接しているから。

    この線の異常は同部のリンパ節腫大や、肺病変、食道腫瘤病変に見られる。

 5、大動脈肺動脈窓

    縦隔の一部分で上縁が大動脈弓下縁、下縁は左肺動脈上縁、内側は左気管

    支および気管、外側は縦隔胸膜で囲まれた部位。

    このA−Pwindow内には動脈管索、左反回神経、大動脈下(ボタロー)

    リンパ節、上行大動脈リンパ節などが脂肪に包まれて存在する。

 6、大動脈肺動脈線

    大動脈弓部からやや外側に斜走する辺縁で、肺縦隔境界面を表す。

    A―Pwindowのやや前方で上行大動脈の外側縁を表す線状影。

    この肺縦隔境界線の膨隆は、肺動脈円錐の拡大や上行大動脈リンパ節の

    腫大などを示唆する。

 7、傍大動脈線

    下行大動脈の左縁と左下葉が接して形成される線。動脈瘤や神経原性腫瘍でシルエットが消失する。

 8、左脊椎傍線

    下行大動脈の後方で、肺が胸椎の椎体側縁に接して生ずる線。

    (胸椎と下行大動脈の間に脂肪組織が存在するため形成される)

    胸椎撮影では全例に描出され、臨床的に重要である。

    リンパ節腫大や後部縦隔発生の腫瘍の存在診断に役立つ。

                拡大してみる

  

 おわりに、放射線技師として縦隔肺境界線のX線像の成り立ちと、局所解剖を理解しておくと、中央陰影に重なった病変の検出が容易になり、異常の読影も容易になる。

縦隔肺境界線の膨隆は縦隔腫瘤の存在を、境界線の不鮮明化(シルエットサイン)は肺内、または胸膜の病変を示している。病変の異常の確認は胸部C丁撮影で行うとよい。  

 

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